3 妊婦の薬物クリアランスの変化
 妊娠中は,増大したエストロゲンやプロゲステロンレベルの影響を受けて,薬物の代謝が変化することが報告されている.薬物の第1相の代謝を担うチトクローム
P450 群に属する酵素は,その分子種により妊娠中の活性が上昇するもの,低下するもの,大きくは変わらないものが知られている50),51)

 妊娠中はカルバマゼピン血漿濃度の低下が報告されておりCYP3A4 活性の増大が関与していると報告されている.また,フェニトイン血漿濃度も低下することが報
告されておりCYP2C9 活性が増大していることが,その原因として指摘されている.また,妊娠中はフルオキセチンのN-脱メチル体であるノルフルオキセチンの血
漿薬物濃度が増加することよりCYP2D6 の活性が誘導されていると考えられている.一方,妊娠中はテオフィリンのクリアランスが低下していることが報告されてお
り,CYP1A2 の活性低下が指摘されている.こうした代謝酵素活性の変化は, その妊婦がEM(extensive metabolizer)の場合とPM(poor metabolizer)の場合で,
誘導・阻害への反応性が異なることも考えられており一様ではない.さらに,第2相の薬物代謝を担うグルクロン酸抱合能はバルプロ酸などで増加していることが報告
されているが,アセトアミノフェンなどの硫酸抱合は減少していたことが報告されている.

 妊娠中は糸球体ろ過量が約50%増加することが知られており,腎排泄型薬物であるジゴキシン,リチウム,ペニシリン系・セフェム系等の多くのβラクタム系抗生物質などの腎クリアランスが増加し,薬物血中濃度が低下する可能性が考えられている50)
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)