2 妊婦の薬物分布容積の変化
妊娠の進行に合わせて,胎盤・胎児・羊水量が増大すること,循環血漿量が約40~ 50%増加するため母体の相対水分量は約8L増加すると考えられている51).こうした体成分の容積増大のため,水溶性の薬物の分布容積が増加する可能性や,最高血中濃度が低下する可能性が考えられる.ただし,臨床的な投与量の変更が必要になるか否かは,母体の他の生理的変化とも関連しており個人差もあることから一様ではない.
妊娠の進行に伴いアルブミン産生量は増加するがこれを上回る循環血漿量の大幅な増加が生じるため希釈性の低アルブミン血症が生じる.さらに,妊娠週数の進行とともにエストロゲンやプロゲステロン等の女性ホルモンや遊離脂肪酸の血中濃度が増大するために,タンパク結合率が低下することが知られている.
こうした母体の生理学的変化は非結合型の薬物の増加を示唆しているが,非結合型の薬物は薬物代謝酵素の標的となること,妊娠中に増大した腎クリアンスによって排泄されることにより,多くの薬物では顕著な変化には至らない.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)