4 母乳保育の乳児利益
 我が国の医療用医薬品添付文書では,動物実験または人で母乳中に移行が認められるデータがある場合,「授乳婦への投与を避ける」または「授乳を避けさせる」
ことと注意喚起されることが一般的である.一方,海外の専門家は母乳保育が乳児にもたらす利益と,母乳に移行した薬物が乳児にもたらす不利益を比較考慮して,母乳保育がもたらす利益を損なわないよう配慮すべきことを勧告している.米国小児科学会が2010年に公表した指針47)では,近代的な疫学研究や,最新の実験技術を用いた広範囲な研究により,乳児の栄養として人母乳を用いること,ならびに母乳保育によって乳児・母親・家族・社会が得られる健康,栄養学,免疫学,発達,心理学,社会,経済,環境的な利益について根拠が示されている.我が国でも,2007年に厚生労働省が公表した授乳・離乳の支援ガイド48)では「薬の使用による母乳への影響については科学的根拠に基づき判断の上,支援にあたる」との考え方を示している.さらに,日本小児科学会が2007年に公表した「若手小児科医に伝えたい母乳保育の話」49)の中では,米国小児科学会同様に母乳保育の利点を解説した上で,投薬中の授乳に関して「母乳への薬剤の移行機序を理解することの重要性と,添付文書以外の情報を収集し評価することの必要性」を強調している.
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)