RID(%)=[(母乳を介する乳児薬物摂取量)/乳児体重]   
[(授乳婦への薬物投与量)/母親体重]×100
3 乳児への影響評価
 乳児への薬物の影響を評価するには,薬物動態学(PK)と薬力学(PD)の両面からの考慮が必要だが,薬力学的考慮の指標となる各種レセプターの発現量や酵素の発現量などに関する乳児のデータは明らかでないことが多い.以下,乳児曝露量を中心に解説する.

①乳汁/血漿薬物濃度比(Milk-to-Plasma drug concentration ratio:M/P比) 

 母乳中の薬物濃度を母体血漿薬物濃度で除した値はM/P比と呼ばれ,薬物の母乳移行性の指標として汎用されている.カプトプリル34),プロプラノロール35),ニフェジピン36)におけるM/P比は,それぞれ0.03,0.33~1.65,1.0と小さく,アテノロール37),ソタロール38)では1.5~ 6.8,5.4と大きく,ヨウ素では極めて高い.

 M/P比は母体血漿薬物濃度と母乳中薬物濃度の比であり,両薬物濃度がともに高値の場合は,M/P比が相対的に低い値となり乳児への影響を過小評価するおそれがある.また,M/P比が大きな値になったとしても,母乳中薬物濃度の絶対値が極めて小さく薬理作用が認められない場合もある.M/P比は本来母乳移行性の指標であり,乳児への経母乳的薬物の影響を評価する間接的な指標にしかならないことに留意したい.

②相対乳児摂取量(Relative Infant Dose: RID)

 M/P比より直接的に乳児へ影響を評価できる指標として,乳児薬物摂取量(mg/日)あるいは相対乳児摂取量(%)がある.RIDは,乳児が母乳を介して1日に摂取
する体重当たりの薬物摂取量(mg/kg/日)を,母親の体重当たりの1日投与量(mg/kg/日)で除した値の百分率として表わされる(図5)

 RIDは,体重換算された値であるため,母体に投与された薬物が乳児にどの程度摂取され薬理作用を及ぼし得る曝露量なのか否か評価する際に有用である.本来,母体の投与量と比較するよりも乳児の治療量(投与量)と比較する方が合理的だが,多くの薬物で乳児の治療量が確定していないために母体への投与量との比較としている.海外の専門家は,RID が10%未満の薬物の授乳は概ね安全と評価している.

 カルシウム拮抗薬のニフェジピン39)・ニカルジピン40)のRIDは,それぞれ0.1%・0.073%,β 遮断薬のプロプラノロール35),41)のRIDは0.1~ 0.9%,αβ 遮断薬で
あるラベタロール41),42)のRIDは0.004~ 0.07%であり乳児への影響なしに授乳婦へ投与できる可能性が示されている.一方,β遮断薬の中でもアテノロール41)・アセブトロール43)のRIDは5.7~ 19.2%・1.9~ 9.2%と高く哺乳した乳児に徐脈,低血圧,チアノーゼ等が認められたことが報告されている.

③ Exposure Index: EI

 乳児の薬物クリアランスをパラメーターに取り入れた乳児への影響を評価できる指標として,Exposure Index:EI(%)が提唱されている.M/P比に10を積算し乳児
の薬物クリアランス(mL/kg/分)で除した式で表わされる.係数10は,乳児の標準母乳摂取量である150mL/kg/日とEIを百分率として表わすための式から導かれる44),45).乳児の薬物クリアランスが明らかでない薬物が多いため,成人の薬物クリアランスで代用するか,乳児の薬物クリアランスの未熟性に配慮して成人の50%
とするなどして推定に使用される.

④乳児毒性が予想される薬物

 フルオロウラシルなどの5-FU系の代謝拮抗薬,ドキソルビシン,シクロホスファミド等の抗腫瘍薬は,母乳移行性のデータの有無にかかわらず,細胞毒性があるた
め治療中の授乳は禁忌とされている.また,モルヒネやコカインなどの麻薬も依存性が生じる恐れがあり使用中の授乳は禁忌とされている.

 循環器系の薬物の中では,抗不整脈薬アミオダロンのRIDが43.1%と高く46),哺乳児に甲状腺機能低下症が認められた症例が報告されている.
図5 相対的乳児投与率(RID: Relative Infant Dose)計算式
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)