2 乳児の薬物動態
母乳を介して摂取された薬物の乳児への影響を評価するにあたり母乳中の薬物の乳児における薬物動態と曝露量,毒性の評価が重要となる.
①吸収
新生児の胃液のpHは,出生直後では高いものの時間とともに低下し24時間後には正常の酸度となる.このため経母乳的に摂取した薬物のうちプロトンポンプ阻害
薬のように酸に不安定な薬物は乳児の胃内で分解されるため薬理作用を発揮するとは考えられない.こうした薬物は酸による分解を避けるため腸溶製剤として市販されており判別の参考になる.
また,生体における吸収が不良な薬物は吸収を高めるためエステル化等の化学修飾を施した化合物として市販されている.ACE阻害薬エナラプリルは,母体に投与
した後にエステラーゼにより脱エステル化され活性体(エナラプリラート)となって降圧作用を発揮する.経母乳的に摂取するエナラプリラートあるいはエナラプリルは母体への投与量の0.16%程度31)と微量であり活性体の吸収が不良であることを考慮すると乳児の全身循環に至る吸収量は極めて微量であることが推察できる.
さらに,分子量が極めて大きな薬物,例えば低分子ヘパリン,未分画ヘパリン等は,経母乳的に微量の薬物を摂取したとしても,腸管からの吸収は期待できず乳児の曝露による薬理作用発現は想定されない.
②分布
妊娠初期に胎児体重当たり90%程度を占めていた水分量は,正期産新生児では75%程度に減少し生後3か月には60%程度になる32).このことは新生児・乳児で体重当たりの薬物の分布容積(Vd)が大きいことと一致している.
また,新生児期は血清アルブミン,α1- 酸性糖蛋白質ともに低値であり,成人と比較して薬物の蛋白結合率が低く,薬理作用に関与する遊離型薬物の血中濃度が高くなる傾向がある33).
③代謝・排泄
新生児期の薬物クリアランスは一般に低いことが知られている.乳児曝露量ならびに乳児への薬物の影響を評価するにあたり,肝臓における薬物代謝酵素の発現量,GFR等の腎における薬物排泄能などが低値であることを考慮する必要がある.ただし,個々の薬物の乳児における薬物クリアランス値は明らかでない場合が多い.
なお,詳細は前項「総論Ⅰ:小児薬物療法の基礎知識」に譲る.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)