8 IEの予防
 CHDでの発症予防は重要である.IEを予防するためには,①ハイリスク心疾患群,②感染危険率の高い手技・処置,③IEの予防法を十分に認識することが必要であ
538),540).2007年に米国心臓協会(AHA)のガイドラインが大きく改訂された554).大きな変更点は,歯科処置の際の抗菌薬の予防的投与を重大な結果を生じる可能性の高い心疾患に限定した点である.具体的な改訂内容は,①歯科処置に伴う菌血症よりも日常的な行為により生じる菌血症の方がIEを発症する可能性が高い,② 100%有効な抗菌薬を用いて予防したとしても,IEを防げる実数は非常に少ない可能性がある,③抗菌薬の予防投与は重大な結果を生じる可能性の高い心疾患に限定することが妥当である,④生涯にわたりIEに感染する可能性が高いという理由だけでは予防投薬を行わない.以上である.

 AHAの大幅な改訂に対して,日本の予防に関する考え方は異なる538),540)

 抗菌薬に関連した有害事象の多くは一過性であり,致命的なアナフィラキシーは報告されていない.抗菌薬を非日常的な用量で単回投与することは,歯科医,一般内科医,患者にIEに対する関心を持ってもらう点で重要である.単回投与であり,抗菌薬による耐性菌の発生にはつながらない.

 複雑CHD,中等度から重度CHDは,IEの罹患後に重症化することが多い.さらに,心室中隔欠損など軽症とされる疾患であっても,疣腫形成,全身塞栓などの合併
頻度は高く,死亡率も3.8%と決して重症化しにくいとはいえない541)

 抗菌薬投与が菌血症を減少させるという研究結果も発表されている555).我が国の全国調査541)では,歯科処置後の発症を12.4%に認め,そのうち心室中隔欠損が46%ともっとも頻度が高い.日本循環器学会の全国調査550)は18%という高い頻度で歯科処置に関連したIEを認めた.日本循環器学会と日本小児循環器学会538),540)は,従来どおりに,中等度リスク群である心室中隔欠損等も抗菌薬の予防投薬を行うことを推奨している.さらに,抗菌薬の予防投与の投与量は,成人患者では,患者の体型などに従い減量を行う主治医の裁量を優先した.

 IEの予防あるいは重症化防止のためには,単に抗菌薬の予防投与のみでは不十分で,口腔ケアを含む日常の予防に関する注意が非常に重要であり, この点は,
AHAだけではなく,我が国のガイドライン538),540)でも強調されている.
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)