2 心保護薬
①アンジオテンシン変換酵素阻害薬

 慢性心不全に対するACE-Iの効果はCONSENSUS試験141),SOLVD試験142)などでエナラプリルによる左室収縮不全に対する予後改善効果が報告された.理論的にはアンジオテンシン変換酵素抑制のみではキマーゼなどの他の変換酵素をブロックすることはできないためアンジオテンシンII 産生を抑制することはできず,実際にACE-I 長期投与ではアンジオテンシンII 濃度はしばしば治療前のレベルに戻ることが知られている.それゆえACE-I の慢性心不全予後改善効果は単にRAA系の抑制のみでは説明できない.アンジオテンシン変換酵素はキニナーゼII でもありこれを抑制することでブラジキニン系が活性化し,その結果一酸化窒素産生系・PGI2 産生系が亢進することが作用の一因であると言われている.

 小児心不全においてはカプトプリルあるいはエナラプリルを投与したデータがほとんどである.国内ではシラザプリルを投与した報告も散見される143),144).小児においても収縮不全144)-147),あるいは弁逆流に起因する鬱血性心不全に対する有効性が報告されている.さらに左右短絡性疾患に起因する鬱血性心不全に対しても有効であるが148),149),血行動態的には体血管抵抗を低下させて肺体血流比を改善するため肺血管抵抗が相対的に高い症例ではむしろ肺体血流比が増加して心不全が増悪する可能性があり注意を要する150),151)

 副作用として,咳に関しては小児では頻度は少なく,また投与継続で消失することが多い.咳はブラジキニン不活化によるキニン産生増加を意味し心不全に対して有
効であることを意味することから可能であれば投与を継続するべきであろう.まれではあるが喉頭浮腫の報告があり留意が必要である.また妊娠中は禁忌である.投与方法に関しては1日1 回投与よりも2回投与の方が血行動態の変化はないものの,心不全予後規定因子の一つであるノルエピネフリン値が低下することが報告されている.

② アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬


 RAA系を抑制するもう一つの薬剤はARBである.これはアンジオテンシンⅠ型受容体をブロックすることでアンジオテンシンⅠ型受容体の作用を抑制するのみなら
ず,間接的にアンジオテンシンⅡ型受容体の作用を活性化し一酸化窒素やブラジキニンを増加させる(Dual Effect).心不全に対するARBの有効性に関するエビデ
ンスはACE-Iほどではないが多数の報告がある.ELITE II 試験ではARB(ロサルタン)がACE-I(カプトプリル)と同様に心不全患者の予後を改善することが示され,ま
た成人のCHARM-Alternative試験でもARB(カンデサルタン)の心不全患者の死亡率,有害事象を減少させることが示された.しかし理論的にはACE-I よりRAA系
を効率よくブロックするにもかかわらず心不全に対する効果としてはACE-Iを越えるデータはない.ACE-IとARBの併用に関して,Val-HeFT試験ではACE-I を含めた標準的な心不全治療にARB(バルサルタン)を追加することで全死亡率は変わらないが有害事象を減らすことができることが示された.CHARM-Added試験では
ACE-I 治療中の慢性心不全患者にARB(カンデサルタン)を併用した際の死亡率・予後を改善することが示された.成人では高血圧に合併した心不全が少なくないこ
と,および咳嗽というACE-I の副作用がARBでは生じないため忍容性が高いことからACE-I に先んじて投与されることが多い.小児において心不全はむしろ血圧が
低い状態であることがほとんどであることから,ACE-Iを優先して投与することが多い.ACE-I とARBどちらが有効か,あるいはACE-I の中でどの薬剤がより効果が強いかなど強い関心を持たれているが,いずれも投与量が多いほど効果の強い薬剤であることから結論を導き出すのは容易ではない.

③抗アルドステロン薬

 従来フロセミド投与時に生じる低カリウム血症予防のために併用されてきたスピロノラクトン(心性浮腫に適応あり)もRAA系をブロックして心不全の予後を改善することが知られている.近年ではより選択性の高いエプレレノン(心不全の適応なし)も我が国で使用可能となったが,本薬剤はACE-I およびβ遮断薬投与下でもさらなる予後改善効果が報告されている.利尿薬であるトラセミドの慢性心不全患者への予後改善効果の一つの理由として,フロセミドにはない抗アルドステロン作用が指摘されている.

心機能障害による小児鬱血性心不全に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与
クラスIIa エビデンスレベルC
大動脈弁・僧帽弁逆流による小児鬱血性心不全に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与
クラスIIa エビデンスレベルC
左右短絡による小児鬱血性心不全に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与
クラスIIb エビデンスレベルC
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)