1 血管拡張薬
①ニトロプルシッドナトリウム
ニトロプルシッドは短時間作用型の強力な血管拡張薬で,動脈・静脈ともに拡張させる作用を有する.作用は早く,速やかに一酸化窒素とシアン化物に代謝される.
この薬理学的特性により急性鬱血性心不全の治療に適している.シアン化物は肝臓でチオシアン化物に代謝される.シアン中毒は長期使用の場合,特に肝腎機能低下あるいは低心拍出による肝還流の低下している患者において起こりやすい. 成人の急性心不全においては心拍出量を増加し,心室充満圧を低下させ,心房容積を減少させ,さらに僧帽弁・三尖弁逆流を改善する.小児においては敗血症やARDSにおける低心拍出を改善することが報告されている138).心室中隔欠損においては左右短絡を増加させ体循環量を減少させるという報告もあるが,その循環動態によってさまざまに作用するという報告もある.成人においてニトロプルシッドは大動脈
弁139)および僧帽弁閉鎖不全において逆流量を減少させ,充満圧を低下させることが報告されている.
心機能障害による小児鬱血性心不全に対するニトロプルシッドの投与
クラスIIa エビデンスレベルC
②ニトログリセリン
ニトログリセリンは血管平滑筋のグアニル酸シクラーゼに作用し直接的に血管拡張を,主に静脈系に惹起する.細胞内で遊離した一酸化窒素がグアニル酸シクラーゼを活性化した結果,増加したcGMPがcGMP依存性キナーゼを活性化しさまざまな調節タンパクのリン酸化状態が変化し,その結果血管拡張に至る.ニトログリセリンも肝臓で速やかに代謝され,血中半減期は短く(成人で1~ 4 分)静注で投与する際は持続静注される.治療濃度での主な作用部位は太い静脈であり心房・心室の充満圧を低下させる.副作用として低血圧,頻脈などを認めることがある.小児におけるデータは少ないが,左右短絡性先天性心疾患において肺体血流比を変えずに心室充満圧を低下させることが知られている.また同疾患の心内修復術後の有用性も報告されている.新生児の循環不全においては収縮機能を改善させ中心静脈圧を低下させることが報告されている.貼付型の剤型は小児では血中濃度の上昇がよくないことが報告されている.閉塞隅角緑内障の患児には禁忌である.
③ヒドララジン
細動脈の血管平滑筋に直接作用し血管拡張を惹起する.広く全身の血管に作用するが骨格筋・皮膚におけるよりも・脳・内臓・腎・冠動脈により強く作用する.主な
血行動態の変化は抵抗血管拡張による心拍出量の増加である.体動脈圧・心室充満圧の低下は軽度である.注射薬・内服薬があるが腸管・肝臓での初回通過効果があるため経口での生物学的利用度は低い.スローアセチレーターでは血中濃度の上昇が高いため副作用の頻度が高く低用量で治療されるべきである.成人においては心不全症状を軽快させ運動耐容能を改善するが,エナラプリルのような予後改善効果はない140).成人では10%程度にループス様症候群が認められ,スローアセチレーターで投与量が多いほど発生頻度が高い.抗核抗体は陽性となるが,抗核抗体が陽性であれば必ず症状が出るとは限らない.有症状で抗核抗体が陽性であれば投与の中断が必要であるが,一般的には可逆的で中止後6か月以内に症状は消失する.
④フェントラミン
フェントラミンは術後や集中治療の際に使用されることがある混合型の血管拡張剤であるが静脈拡張作用は比較的少ない.α1 受容体のみならず前シナプスのα2受容体も遮断するため,ノルエピネフリンの放出は増加し頻脈あるいは不整脈を引き起こすことがあるが,成人に比較し小児では少ない.心不全患者において体血管抵抗を下げ心拍出量を増加させるが充満圧を低下させる作用は弱い.セロトニン受容体の遮断作用も有するため消化器症状が出現することがある.
⑤Ca拮抗薬
主に動脈拡張を惹起する.ニフェジピン,ニカルジピンなどのジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は強力な血管拡張作用を持つが陰性変力作用は他の薬剤に比較して弱
い.肺高血圧を有する心室中隔欠損の児においてニフェジピンは体血管抵抗を低下させ,左右短絡を減少させる.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)