1 AMR の予防・治療
抗HLA抗体陽性例,ABO不適合での移植においては,Tリンパ球を枯渇させるような抗体製剤とFK,MMF,ステロイドからなる三薬併用療法を行う.腎移植の文献
から,反復して静注用免疫グロブリン製剤(IVIG)を投与することが多い.
これ以外に,保険適応にはなっていないが,AMRの予防・治療に有効な薬剤にRituximab(リツキサン)とBortezomib(ベルケイド)がある.我が国では,前者は
CD20 陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫,後者は再発性・難治性の多発性骨髄腫で保険適応となっている.
① Rituximab(リツキサン)
Rituximabは,正常または腫瘍性のBリンパ球の表面にあるCD20 に対するキメラ型モノクローナル抗体である.Bリンパ球を枯渇させることで,同種片に対する抗
体は減少するが,形質細胞は減らないので,本当のメカニズムは依然不明である.この薬剤は,元来成人の悪性リンパ腫の治療薬として使用されているが,小児のBリンパ球型の難治性PTLDに有効である.慢性関節リウマチや自己免疫疾患にも有用で,ランダム比較試験の結果はないがAMRにも有効例が報告されてきた683).多くは,IVIGと併用されている.
[適応]
CD20 陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫. インジウム(111In)またはイットリウム(90Y)イブリツモマブチウキセタン注射液投与の前投与としてのみ国内で保険承認されている.
当面は,AMRの治療薬としてではなく,腎,肝でABO不適合の前治療薬として承認される可能性が高い.
[用量]
・ABO不適合移植
2 歳未満は原則,ABO適合移植と同様の免疫抑制薬を投与する682).
2 歳以上,または抗ABO血液型抗体の高い症例(>1:8)では,Rituximabに血漿交換,IVIGを併用する.
その際,Rituximabは375 mg/m2( 又は半量)を,移植前に1 ~ 2回,緩徐に静脈内投与する(最大1 g/m2)
HLAに感作された場合,リンパ球交差試験陽性例での移植も上記に準じて行う.
・AMRの治療
抗胸腺細胞抗体製剤,血漿交換に抵抗性のAMRで使用する.
375mg/m(2 または半量)を1回1~2回,緩徐に静脈内投与する(最大1 g/m2).
・主な薬剤相互作用は不明.
[禁忌]
本剤および成分,またはマウス蛋白に対する過敏症の既往.
[副作用]
投与時の反応として発熱,悪寒,下痢,発疹,気管支痙攣,血管性浮腫が認められる(初回に多い).他に,粘膜皮膚反応,進行性の多発性白質脳症,B型肝炎の再燃,貧血,白血球減少,血小板現象などがある.
② ボルテゾミブ(ベルケイド)
本剤はプロテアソーム阻害薬で,再発性・難治性の多発性骨髄腫の治療薬である.抗体を産生する形質細胞を枯渇する点で,AMRの治療薬として期待されてい
る.多くの研究がなされており684),685),血漿交換,IVIGならびにリツキサンなどに反応しない難治性のAMRの治療薬として期待されている.
[適応]
国内では再発性・難治性の多発性骨髄腫の治療薬として承認されている.
[用量]
1.3 mg/m2を,ボーラスで3~ 5 秒かけて静脈内投与する.
2週間毎に4回投与する.
主な薬剤との相互作用:CsAと同様,CYP3A4/5 代謝の誘導または阻害を通じて,多くの薬剤との相互作用を認める.アゾール系抗真菌薬は,CYP3A4/5 代謝を抑制して,ボルテゾミブの決中濃度を増加させる.
[禁忌]
本剤,ホウ素,マニトールに対する過敏症の既往.
[副作用]
低血圧,心不全,末梢神経障害,胃腸障害,急性呼吸促拍症候群(ARDS),貧血,血小板減少,白血球減少
[使用上の注意]
ボルテゾミブ投与30前に,メチルプレドニゾロン5mg/kg(最大100mg)を前投与する.
AMRで本剤が使用されるまでに多剤が使用されており,安全性を評価するのは難しい.
AMRに対し,他に有効な治療法がないときに使用する.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)