利点問題点
NO吸入療法アイノベント®+アイノフロー®
• 肺血管を選択的に拡張
• 全身血圧に影響せず
• 低侵襲
• 児の体重等の制限なし
• 人工呼吸器回路に容易に接続可能
• NO吸入療法副作用
  メトヘモグロビン血症
  吸気NO2濃度の上昇
血管拡張剤
(エポプロステノール・プロスタグランジン)
• 静脈内投与
(特別な機器は不要)
• 肺血管に対する選択性なし
• 体血管拡張による血圧低下
体外膜酸素療法
(ECMO)
• 唯一の最終救命治療
• 人工換気に伴う肺の圧力損傷を回避できる
• 高い侵襲度
• ヘパリンによるリスク
• 適用制限
  体重2kg未満
  カニューレ径に不適合な血管径
• 多くの人手と労力
  回路組み立て
  回路維持管理・交換
【効能・効果】
新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全
【効能・効果に関連する使用上の注意】
(1 )本剤は臨床的または心エコーによって診断された,新生児
の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全患者にのみ使用するこ
と.
(2 )在胎期間34週未満の早産児における安全性および有効
性は確立していない.
(3 )肺低形成を有する患者における安全性および有効性は確
立していない.
(4 )先天性心疾患を有する患者(動脈管開存,微小な心室中
隔欠損又は心房中隔欠損は除く)における安全性および有
効性は確立していない.
(5 )開心術後の肺高血圧クリーゼを来たした患者における安
全性および有効性は確立していない.
(6 )重度の多発奇形を有する患者における安全性及び有効性
は確立していない.
【用法・用量】
・出生後7日以内に吸入を開始し,通常,吸入期間は4日間
までとする.なお,症状に応じて,酸素不飽和状態が回復し,
本治療から離脱可能となるまで継続する.
・本剤は吸入濃度20 ppmで開始し,開始後4時間は20 ppm
を維持する.
・酸素化の改善に従い,5 ppmに減量し,安全に離脱できる
状態になるまで吸入を継続する.
【使用上の注意】
(1 )本剤は,新生児の呼吸不全治療に十分な経験を持つ医師
が使用すること.投与に際しては緊急時に十分な措置がで
きる医療機関で行うこと.
(2 )本剤の使用によっても酸素化の改善が認められない場合
は,体外式膜型人工肺(ECMO)等の救命療法を考慮する
こと.
(3 )本剤の効果を最大限に発揮するため,十分な呼吸循環管
理等を行うこと.
(4 ) 離脱の際には, 吸気中NO濃度, 吸気中NO2濃度,
PaO2,血中メトヘモグロビン(MetHb)濃度等のモニタ
リング項目の他,心エコー検査による右-左シャント消失
の確認等,血行動態の評価も参考にすること.
【副作用】
・国内:新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全患者を対
象に実施した臨床試験(INOT12試験9))において,安全性
解析対象例11例中,副作用は認められなかった.
・海外:新生児遷延性肺高血圧症患者を対象とした臨床試験
(CINRGI 10) およびINO-01/02試験11))において,安全性
解析対象例224例中85例に副作用が認められた.主な副作
用は,血小板減少症19例(8.5%),メトヘモグロビン血症
15例(6.7%),低カリウム血症10例(4.5%),ビリルビン
血症8例(3.6%),痙攣8例(3.6%),無気肺8例(3.6%)
および低血圧7例(3.1%)であった.
4 治療
 肺血管抵抗を下げ,かつ体血圧を正常に保つことにつきる.しかし,原疾患そのものの治療とアシドーシスなど破綻した代謝的異常の補正が不可欠であり,呼吸管理も重要となる.

①人工呼吸療法:

 通常の人工換気のほか,過換気療法,特に高頻度振動換気(high frequency oscillation: HFO)が効果的である(クラスⅡb,レベルA).これも過換気によるアルカリ化で肺血管抵抗を減じる効果があり,気胸予防の利点をともなう593).わずかな誘因で肺血管が攣縮することから鎮静を保ち,minimal handlingに努める.場合によってミダゾラムなどの鎮静剤や臭化ベクロニウムなどの筋弛緩剤,フェンタニールなどの麻薬静注も考慮する(クラスⅡb,レベルC).

②体血圧の管理

 相対的に体動脈圧を上げる目的でカテコラミンの持続静注も有効である.また,容量負荷(輸血など)も低血圧時に有効である594).(クラスⅡb,レベルC)

③ 一酸化窒素(nitric oxide: NO)吸入療法:(クラスⅠ,レベルA).

 NOの登場はPPHNの治療を飛躍的に向上させた.投与経路が吸入療法であるため,全身にではなく選択的に肺血管拡張作用をもたらし,もっとも期待できる.2010
年より新生児PPHNに対して保険適応となった(表43).実際の使用にあたっては人工呼吸器回路に接続し,吸入NO濃度とNO2濃度をモニターしながら20ppmで開
始し,5ppm程度の有効最低量で維持する.メトヘモグロビン血症のチェックは不可欠で,環境汚染としてのNO2のモニタリングも必要である.NO吸入療法導入により,膜型人工肺(ECMO)の使用頻度が減少し595),term/near-termの低酸素性呼吸不全児の死亡率とECMO導入率を減じ,NO吸入療法の有効性が認めてられている596)

④その他の血管拡張薬

 作用機序としては①PGI2-cAMP経路(エポプロステノール),②NO-cGMP経路(NO吸入療法,PDE 5阻害薬:シルデナフィル),③エンドセリン(ET)経路(ET
受容体拮抗薬:ボセンタン)の3つに分類され,血管内皮や平滑筋をターゲットにしたものが肺高血圧治療薬と言われる578)

1)エポプロステノール
 PGI2は強力な肺血管拡張作用と血管保護作用を有し597),肺動脈性高血圧症においては最も強力な薬剤で,我が国でも小児の使用と長期的な検討がなされ,その有効性と安全性が認容されている598).しかし,新生児領域での使用経験は少なく,PPHNについては大量療法(30~120ng/kg/分)の有効性を述べた報告がある599).(クラスⅡb,レベルB)使用時の低血圧に対しカテコラミンが必要となる.

2)シルデナフィル
 PDE 5阻害薬であるシルデナフィルは肺動脈性高血圧症治療薬としての認可を得た経口薬であるがPPHNの有効性についての報告もある600).Cochrane DatabaseでもPPHNに対するシルデナフィルはプラセボに比べ救命率が格段に上昇した報告を主体として有効性を述べたが,今後の臨床データの蓄積が必要としている601),602).(クラスⅡb,レベルB)

3)ボセンタン
 ET受容体拮抗薬であるボセンタンも作用機序は異なるものの,シルデナフィルと同様に肺動脈性高血圧症においてはその有用性が認められているが,新生児PPHNでの報告例は少ない.(クラスⅡb,レベルB)

4)ミルリノン
 PDE 3阻害薬であるミルリノンはinodilatorともいわれ,心収縮増強作用と血管拡張作用を併せ持つ.新生児PPHNについての報告は少なく,Cochrane Database
でもまだ,プロトコール段階である603).(クラスⅡb,レベルC)

5)硫酸マグネシウム
 硫酸マグネシウムの持つ血管拡張作用がPPHNに対して有効である可能性を説く報告はあるがCochrane Databaseでは確立した使用法としては認められず,推奨
はできないとしている604).(クラスⅢ,レベルC)

⑤膜型人工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenation; ECMO)

 以上の治療が無効で低酸素血症が持続する場合に適応となる.人工換気条件として酸素化指標(Oxygenation Index: OI)が35または40以上605),また肺胞─動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)600mmHg以上が4 時間以上持続するような重症例はECMOを考慮する(クラスⅡb,レベルB).ただし,ECMO回路内のヘパリン化が必要なため,早産児では頭蓋内出血のリスクが高く,在胎週数34週以上であること,体重1,500~ 1,800g以上,人工換気が7日以内などの条件を満たさないと使用しにくく,マンパワーも必要となる606).(クラスⅡb,レベルB)表44にはNO吸入療法と血管拡張薬, ECMOとの比較を示した.
表43  一酸化窒素吸入療法「アイノフロー吸入用800ppm®」の添付文書から抜粋
表44 NO吸入療法と血管拡張薬,ECMOとの比較
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)