10 プロポフォール
[適応]
 全身麻酔の導入および維持.
 小児には未承認である.

[用量]
 麻酔導入には2~ 4mg/kgの投与で就眠が得られるが,一般に低年齢であるほど就眠に必要な投与量は増加する(乳児:3.8mg/kg,10~ 16歳:2.7mg/kg).麻酔維持は3歳から11歳までの小児では,2.5mg/kgのボーラス投与後, 最初の15分間に15mg/kg/時, 次の15分間に13mg/kg/時,その後の30分間に11mg/kg/時,1時間後から2 時間後までの1時間に10mg/kg/時,2時間後から4時間後は9mg/kg/時で投与すると,初期のプロポフォール血中濃度は高めとなるが,時間の経過とともに就眠濃度とされる3μg/mLに収束する.

 小児では, 薬物動態が異なるためTCI(target controlled infusion) 機能は使用できない.成人では麻酔維持に必要な血中濃度は,患者,麻酔法等にもよるが2
~5μg/mLである486).他の中枢神経抑制薬,アルコール,降圧剤,抗不整脈剤(β 1 遮断剤)などとの併用により,相互に作用(麻酔・鎮静作用,血圧低下作用,徐脈化)を増強させる.作用時間,作用持続時間ともに短く,成人では分布T1/2は2~ 8分である.ミダゾラム,サイオペンタールに比較してcontext-sensitive half-timeは投与時間による影響が少ない.大部分が肝で抱合を受け,腎より排泄される.代謝産物は不活性で,1%以下が尿中に,2%が糞便中に未変化で排泄される486).肝,腎機能低下症例でも薬物動態に差は認められない522),523).小児(4~ 12歳)の排泄相T1/2は209分である.

[禁忌]
 本剤または本剤の成分(ダイズ油,卵黄レシチン)に対し過敏症の既往歴のある患者.妊産婦,小児への長期大量投与.

[副作用]
 アナフィラキシー,低血圧,呼吸抑制,舌根沈下を生じることがある.重篤な徐脈,徐脈性の不整脈も発生する.本剤は1.0mLあたり約0.1gの脂質を含有するため,
脂質代謝障害の患者または脂肪乳剤投与中の患者では血中脂質濃度が上昇する可能性がある.

[使用上の注意点]
 投与前には絶飲食時間をとる.早産児や生後1 週間以内の正期産児はプロポフォールクリアランスが低く,反復投与や持続静注の際には蓄積が起こりやすいと考えられるため,投与の是非を含めて慎重な判断が必要である.小児においては,適応のある全身麻酔においても大量のプロポフォール長期使用を発症要因とし代謝性アシドーシス,横紋筋融解,高カリウム血症を伴う心不全を症状とするプロポフォール注入症候群(propofol infusion syndrome; PRIS)524)に特に注意が必要である.これはプロポフォールが細胞内でミトコンドリアの活性を阻害し脂肪酸の酸化が障害されることによるとされる525).小児では人工呼吸中の鎮静目的での使用は禁忌である486),526)
次へ
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)