1 セボフルラン
[適応] 全身麻酔の導入および維持である.厚生労働省医療技術評価総合研究喘息ガイドライン版によるEBMに基づいた喘息治療ガイドラインには喘息の急性増悪において追加治療として記載されているが,National Institute of Healthによる喘息の診断・管理ガイドラインではセボフルランを含む吸入麻酔薬を用いた全身麻酔の適応についての記述はみられない.[用量] 麻酔導入時は,通常5.0%までの濃度で行うことができる.実際には7.0~8.0%で急速導入を行うこともある.維持は,通常他の麻酔薬と併用し患者の臨床徴候を観察しながら最小有効濃度で外科的麻酔状態を維持する.小児の最小肺胞内濃度(MAC: minimum alveolar concentration)は,満期産の0~ 1か月児で3.3%,1~ 6ヶ月児で3%,6 か月3歳未満で2.8%,3~ 12歳で2.5%と報告されている486).平均4.3 歳の小児のMACは2.49%である487).成人では約3~ 5%のセボフルランが,体内で主として肝のCPY2E1 を介して代謝される.代謝されたセボフルランは無機フッ素として尿中に排泄される.血中無機フッ素濃度は2時間でピークとなり,48時間で前値に回復する. 無機フッ素のT1/2は健常成人で21時間である486).亜酸化窒素,鎮痛薬,α 2アゴニスト,硬膜外麻酔の併用はMACを下げる.単独でも筋弛緩作用を持つが,筋弛緩薬との併用によりその作用時間を延長させる.[禁忌] 悪性高熱症およびその疑いのある患者,本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.[副作用] 重大なものに悪性高熱,横紋筋融解症,ショック,アナフィラキシー様症状がある.本剤の体内代謝産物である血清無機フッ素と,二酸化炭素吸着剤との反応で生 じるCompound Aによる腎機能への影響が議論されているが, セボフルレンによる無機フッ素血症およびCompound Aによるヒトでの腎障害を明らかにした報告はない486),488).小児や若年者で痙攣の既往のあるものは痙攣誘発の可能性がある.子宮筋弛緩作用もある.本剤の投与により呼吸が抑制され,心係数,体血管抵抗の低下による血圧低下が見られる.[使用上の注意点] 吸入麻酔薬の中で気道刺激性が少なく吸入麻酔薬による導入を行う場合に適しているが,血液/ガス分配係数が0.63と小さく吸入濃度増加時の血中セボフルラン濃度の上昇が急激であるため血圧低下,呼吸抑制が起こりやすい.そのため必要に応じて投与の中止等適切な処置を要する.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)