室内気100%酸素 10 分30 分15 分30 分 2ng/kg/min 4ng/kg/min 静注PGI2 経口シルデナフィル on off Condition <1> (baseline) Condition <2> Condition <3> Condition <4> Condition <5>
薬剤投与経路投与量T max T 1/2 エポプロステノール静注 0.5~2ng/kg/min,無反応のとき, 10~15分毎に1~2ng/kg/min 漸増してもよいが,重症例では慎 重投与. 速やか3~5分 酸素吸入100%,10L/min,5~15分〃 一酸化窒素 NO 吸入10~80ppm 〃15~30秒 その他 薬剤投与経路投与量T max T 1/2 アデノシン* 静注 50~100μg/kg/minから開始, 2分毎に50μg/kg/min漸増し, 最大200μg/kg/分 速やか5~10秒 シルデナフィル内服小児:0.5~0.6mg/kg/dose 成人:25~50mg/dose 50分3.3時間 ニフェジピン内服成人:10~30mg/dose 20~45分2~5時間
循環指標望ましい急性反応コメント 平均肺動脈圧20%以上の低下; 理想的には40mmHg以下体血圧の有意な低下を伴わないこと 肺血管抵抗30%以上の低下; 理想的には8U・m2以下 肺動脈圧低下とCO増加の両者を満たすべきで, CO増加のみの時は右心不全を来たす恐れあり 右房圧不変,または低下上昇は潜在的な右心不全を意味する 肺動脈楔入圧不変上昇は肺静脈閉塞病変や左心不全併存を示唆する 体血圧不変,または10%未満の低下有意な体血圧低下例への血管拡張薬の慢性投与は禁忌 心拍出量(CO) 増加1回拍出量と相関すべきで,心拍数増加による ものであってはならない 心拍数有意な変化なし慢性的なHR増加は右心不全の招来につながる 動脈血酸素飽和度 (SaO2) 上昇低下は肺疾患または右-左短絡を疑う 肺動脈(混合静脈) 血酸素飽和度(SvO2) 上昇上昇はCO増加と組織酸素化の改善を反映する
2 急性血管反応性試験
慢性投与に先立ち,急性負荷試験による血管反応性の評価が推奨されている.そのコンセプトは元来,カルシウム拮抗薬の長期投与有効例が急性の肺血管拡張反応を示すことに基づいてきた.効果の期待できる治療薬が多様化した現在では,個々の症例における反応性の違いにより,①最適な血管拡張薬の選択,②開始時用量,増量方法などの検討,③重篤な有害事象や予後の予測判定にも有用と考えられる.WHO機能分類(FC)-III 度以下の症例が急性負荷試験の適応となる.高度心不全合併例での心臓カテーテル検査は身体への負担が強く,また血管拡張薬の使用により体血圧低下や心拍出量増加に伴う肺動脈圧上昇を助長し,時には肺高血圧クリーゼを招来させる危険があり相対的禁忌とされる. ①負荷試験の具体的方法 急性血管反応試験に用いられる薬剤を表28 に列記した.通常,右心カテーテル留置下で行われるため,長時間の検査は被験者にとってストレスが大きく,薬剤投与 後短時間で効果の判定を行う必要がある.したがって負荷試験に適した薬剤とは,①肺血管選択性があり,②最高血中濃度到達が早く,③半減期が短く,投与中止後は速やかに代謝される,などの特徴を有している.1 回の検査で複数の薬剤の急性効果を比較する場合は,先に投与された薬剤の効果が残らないように十分な間隔を設ける(図17) . 急性負荷試験は右心カテーテル留置下に100%酸素やNO吸入,静注用PGI2 ,経口シルデナフィルなどを投与して血行動態の変化を観察する.肺動脈圧を評価する際には必ず体血圧を同時にモニタリングすべきである.②基準値 平均肺動脈圧や心係数を測定し,肺血管抵抗および肺体血管抵抗比を算出する.急性負荷試験の際に参考にすべき循環指標を表29 に示す.③診断基準 反応群(responder)の定義は前値(baseline)に比して,肺動脈圧が20%以上の低下,または肺血管抵抗が20~30%以上低下する症例とするのが一般的である422)-426) .さらに体血圧が不変または軽微の低下にとどまること,すなわち肺/体血管抵抗比が不変もしくは改善することを付加条件としていることが多い.また肺動脈圧の低下を伴わずに心拍出量のみが増加した結果,見かけ上肺血管抵抗が低下した症例では必ずしも良好な転帰を辿らないため,判定には注意を要する.④注意点 小児では心臓カテーテル検査中に鎮静薬を使用する頻度が高く, 時に呼吸抑制を生じる場合があるため,SpO2 や血液ガス所見で適切な換気が行われているかを 確認する.静注用PGI2 の急性負荷試験では必ずしも肺血管選択性が認められず,肺動脈圧低下に先立って体血圧低下が出現する場合がある.それに関連して脈拍数の増加やSpO2 の低下を呈することが多いため,検査中は常に心電図やSpO2 モニターをチェックするよう心がける.特に幼少児や心拍出量低下が顕著な症例でその傾向が強いため,急性負荷試験は無理をせず,PAHの病態や治療に精通した経験豊富な施設や医師のもとで施行させるべきである.⑤治療の基本 低血圧に注意する.短期的に肺血管拡張を促すのみではなく,長期的に肺血管の組織学的改善を得ること,肺循環と全身循環のバランスを考えた全身管理を目指す.具体的には全身血圧や脈拍数をモニターしながら症例毎に適切な肺血管作動薬を少量から開始する,短期間での急速な増量はしない,心不全や低心拍出に対する末梢循環確保のため利尿薬の過剰投与は避ける.重症例・低心拍出症例ではカテコラミン(ドブタミン,ドーパミン)やPDE3 阻害薬(ミルリノン,オルプリノン等)を積極的に併用する.また血漿hANP・BNP(またはNT pro BNP)の測定,6 分間歩行テスト,心エコー,心臓カテーテル検査等による定期的な肺血行動態・心機能評価は必須で,治療効果が不十分な症例では早めに治療内容を見直す.
図17 急性負荷試験のプロトコール一例
表29 PAHに対する急性負荷試験時の血行動態評価
(文献418より改変引用)
表28 急性血管反応試験に用いられる薬剤
T max:最高血中濃度到達時間,T 1/2:半減期 *我が国ではアデノシン三リン酸二ナトリウム(ATP)
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)