エビデンスレベル
a)成人における治験(海外)
b)成人での症例報告c)文
献著者の見解
参考文献日本の添付文章
(腎不全への投与)
日本の添付文章
(尿中排泄率) α2b) 405 慎重投与大部分は未変化体で尿中に45%排泄
a) 405 慎重投与記載なし
a) 405 Ccr30mL/min以下またはSCr3mg/dL 以上の
場合投与量減量または投与間隔の延長記載なし
a) 405 Ccr30mL/min以下またはSCr3mg/dL 以上の
場合投与量減量または投与間隔の延長主に尿に未変化体として排泄
a) 405
過度の降圧により腎機能が悪化するおそれがあり
成人で腎障害のある患者へのデータあり
a) 405
高カリウム血症,腎機能の悪化のおそれあ
り,血清クレアチニンが2.5mg/dL 以上の場
合には,投与量を減らすなど慎重に投与
成人で腎障害のある患者へのデータあり
b) 405
腎機能障害の悪化のおそれがあり,血清クレ
アチニン値が3.0mg/dL 以上の場合には,投
与量を減らすなど慎重に投与記載なし
c) 405 記載なし記載なし
a) 405 記載なし記載なし
c) 405 記載なし47.8±10.5%外国のデータ
a) 405 尿中排泄遅延1%以下
a) 405 慎重投与尿中排泄60% 抱合体で排泄
a) 405 記載なし変化体排泄は3~5%
a) 405 記載なし投与量のほとんどは尿中排泄
a) 405
代謝排泄の遅延の可能性あり
投与量間隔の調節
投与量の50~80%が尿中排泄(未
変化体記載なし)
a)およびc) 405 慎重投与未変化体尿中排泄ほとんどなし
c) 406 慎重投与記載なし
3) 406 慎重投与記載なし
3) 405,407,410 慎重投与記載なし
1) 405,407,410 重篤な腎機能障害では慎重投与未変化体尿中排泄ほとんどなし
1) 405 排泄遷延のため中毒を起こす可能性あり大部分が未変化体で尿中排泄
1) 405,407,410 記載なし
1) 405 無尿患者で禁忌,重篤な腎臓障害で慎重投与記載なし
3) 405 無尿患者で禁忌,重篤な腎臓障害で慎重投与記載なし
3) 405 記載なし記載なし
3) 405 記載なし記載なし
3) 405,406,407 記載なし大部分が代謝物として尿中排泄
1) 405,406 腎臓機能低下では過量投与に注意85%以上は未変化体で尿中排泄
3) 405 記載なし尿中未変化体なし
1) 405
1) 405 記載なし尿中未変化体はごくわずか
1) 405 記載なし
2) 405 重篤な腎臓機能障害があるときは禁忌
薬物尿中未変化体排泄率
腎不全患者への修正GFR(mL/分/1.73m 2)
30~50 10~29 <10
α2刺
激薬
クロニジン40~60% 100% 100%
(減量の報告あり)
100%
(減量の報告あり) ACE阻害薬
カプトプリル40~50% 75% 75% 50% エナラプリル60%尿中排泄,
20%enalapril 75% 75% 50% リシノプリルほぼ100% 50% 50% 25% アンジオテンシンレセプター拮抗薬
カンデサルタン52% 100% 100% 100%
(少量より開始) ロサルタン12% 100% 100% 100%
(少量より開始) バルサルタン13% 100% 100% 100%
(少量より開始) 抗
不整
脈薬
プロカインアミド50~60% 経口:6~12時間毎経口:6~12
時間毎%
経口:8~24時間
毎β
遮断薬
アテノロール85~100% 最大1mg/kg
24時間毎(成人は50mg)
最大1mg/kg
48時間毎
最大1mg/kg
48時間毎ビソプロロール50% 100% 66% 50% エスモロール10%未満100% 100% 100% ラベタロール5%未満100% 100% 100% メトプロロール3~10% 100% 100% 100% プロプラノロール1~5%未満
100%(内服ではバイオアベイクビティ上昇のため減量)
100% 100% 血
管拡
張薬
ヒドララジン14% 8時間毎8時間毎12~24時間毎ニトロプルシド10%以下100% 100% 100% PGE1製剤
アルプロスタジル80%は肺を通過中に酸化され代謝物は尿中排泄100% 100% 100% Ca拮抗薬
アムロジピン10% 100% 100% 100% ニカルジピン1%以下100% 100% 100% ニフェジピンほとんどなし100% 100% 100% 強心配糖体
ジゴキシン大部分が未変化体で尿中排泄75% 50%または36時間毎25%または48時間毎利尿薬
フロセミド50~70% 100% 100% 100% ヒドロクロロチアジド90% 100% 推奨できない推奨できないスピロノラクトン10%以下100% 100% 推奨できないその他の薬
ドブタミン10%以下100% 100% 100% ドパミン3% 100% 100% 100% エピネフリン大部分が代謝物として尿中排泄100% 100% 100% ミルリノン85%以上は未変化体で尿排泄0.33~0.43μ
g/kg/分
0.23~0.33μ
g/kg/分
0.2μ
g/kg/分抗
凝固薬
ジピリダモール不明100% 100% 100% ヘパリン通常は少量100% 100% 100~50% ワルファリンごくわずか100% 100% 100% 非
NSAID アセトアミノフェン3% 100% 100% 8時間毎(投与間隔1.5~2倍) NSAID アスピリン2~30% 100% 100% 避ける
循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012 185
3 腎不全患者への薬物投与の基本
 尿中への活性体の排泄率が高い薬物を腎不全患者に投与すると,血中消失半減期が延長する.よって,その程度に応じて投与間隔を延長させ,有効血中濃度に入るように1回の投与量を設定する.小児腎不全患者に対する至適投与量は,ほとんどの薬物で明確な記載がない.この場合は,健康成人における薬物動態,主に尿中活性体の排泄率,タンパク結合率を参考にして投与量を決定する.薬物によっては糸球体で濾過されるだけでなく,尿細管からの分泌や,再吸収,薬物の荷電や,尿pHが薬物排泄に影響を及ぼすことがある.通常,薬物の腎クリアランスはGFRと近似していると仮定して投与設計を行う.

①腎不全患者への適正投与の考え方

 腎排泄型の薬剤は薬物の活性体(多くの場合は未変化体)の尿中排泄率および腎機能から適正投与量を推定する事ができる.腎機能の指標として,GFR ,estimated GFR(eGFR),クレアチニンクリアランス(CCr),血清クレアチニン値(SCr)が用いられる.ICHガイドラインE6に腎機能低下の場合の記載が必要とされているにも関わらず,我が国の医薬品添付文書に詳細な腎機能別の投与量が記載されている薬物は少なく,また海外で使用可能な医薬品も含め,慎重投与とされている医薬品が多く見られる(表27)

②尿中排泄率

 活性体の尿中排泄率が40%以上になると腎不全患者で蓄積されやすく,減量が必要になる.注意すべき点は,添付文書で記載されている尿中排泄率は尿中未変化体排泄率と単なる尿中排泄率があり,活性のない代謝物を含んでいるものがあることである.尿中への排泄物が活性のない代謝物の場合は腎不全患者でも減量の必要性はない.例えばニフェジピンの尿中排泄率は70~ 80%と記載されているが,これらは全て活性のない代謝物であるため,腎不全患者でも減量の必要性はない.経口製剤の場合,吸収率が低い薬剤では,バイオアベイラビリティーを考慮せず尿中未変化体排泄率が記載されているため,吸収率を算定する必要がある.例えば,アシクロビルを1時間で静注した場合,68~ 76%が48時間以内に未変化体として尿中に排泄される.アシクロビルを経口投与した場合,投与されたアシクロビルの15~ 30%が血中に取り込まれ,投与されたアシクロビルの12~ 25%が未変化体のまま尿中に排泄される.添付文書には,経口投与したアシクロビルの12~ 25%が未変化体として排泄させると記載されているため,内服薬の吸収,代謝を考慮しないと未変化体尿中排泄率が見かけ上低くなる.

③腎機能に応じた投与量,投与間隔の算出

 腎機能障害患者に薬物を投与する場合は,身体所見から細胞外液量の評価を行う.初期投与において浮腫や腹水のある患者ではその増量が必要な場合があり,脱水の患者ではその減量が必要な場合がある.併用薬剤の確認も重要である.

 薬物の尿中未変化体排泄率および患者の腎機能から,至適投与量を求める方法としてGiusti-Hayton法がある.投与量推定計算式:Giusti-Hayton法を以下に示す.投与補正係数(R)=1-尿中未変化体排泄率×(1-腎不全患者のCCrまたはGFR/ 正常のCCr)であり,正常のCCrとして一般的に100を用いることができる.

 Rを用いた投与設計方式には投与量の変更と投与間隔の変更がある.

 投与量の変更は,腎不全患者の投与量=常用量×Rで求められる.

 投与間隔の変更は投与間隔=通常投与間隔× 1/Rで求められる.小児領域では蓄尿によるCCr測定は困難であり,実際には小児用 Schwartzの予測式によるeGFRが使用されることが多い.

 以下にeGFRの計算式を示す.eGFR(mL/min/1.73m2)=k× 身長(cm)/SCr( mg/dL),k値:2~12歳0.55,13~ 21歳女性0.55,13~ 21歳男性0.70.推定式によるGFRは実際の値から乖離しているという報告もあるが,蓄尿を必要とせず,簡便で実用的である.Schwartzの式に用いる血清クレアチニン値はJaffe法による測定値を用いている.酵素法による測定値はJaffe法による測定結果より0.1~ 0.2mg/dL程度低値を示すため,酵素法での測定値+ 0.2mg/dLをJaffe法による値と仮定して計算する.SCr 値が小数点以下一桁で表される場合は誤差を生じる可能性を考慮する.現在小児腎臓病学会で酵素法によるSCr を用いた新しい計算式が検討されている.(正常クレアチニン値は学会ホームページhttp://www.jspn.jp/参照)

 Giusti-Hayton法による投与量推定計算式には尿中未変化体排泄率が必要になるが,我が国の医薬品添付文書には,尿中未変化体排泄率の記載がない薬物が多く,腎不全患者への薬物の投与量,投与間隔の変更は,海外のガイドラインや治験,各施設のデータから得られた情報をもとに行われている事が多い.表27に主に循環器系に使用する一部の薬物の尿中未変化体排泄率および腎機能別の投与法の変更について記載したが,日本の添付文書のほとんどは腎機能別の投与法の記載がなく,単に慎重投与となっているため投与法変更の参考にできなかった.そこで表27は海外の腎不全患者での薬物代謝や尿中未変化体排泄率のデータを元に作成した.405)-407)

 有効濃度と中毒濃度が接近している有効安全血中濃度が狭い薬剤は,薬物血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring: TDM)を行うことが,副作用なしに有効な血中濃度を得るために有用である.
表27 腎機能低下時の薬物投与量
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)