4 腎機能低下により注意が必要な薬剤
① NSAID 腎不全患者に投与すると腎機能のさらなる悪化を招くことがあるため使用を控える.また,CCrが10mL/min未満の患者には禁忌となっている.NSAIDよる急性腎 不全は腎血流低下による腎虚血によりおこり,肝硬変,ネフローゼ症候群,低血圧,脱水状態の患者で発症しやすい.腎機能障害を認めた場合には,直ちに薬剤を中止する.408) ②アセトアミノフェン 尿中未変化体排泄率は低いが,腎不全患者では高濃度に胆汁排泄された抱合体が腸内細菌にて脱抱合され再び吸収されるため血中濃度が上がりやすい.連続投与する場合は減量が必要になる.409) ③造影剤 重篤な腎障害がある患者への投与は原則禁忌である.非透析患者における造影剤による腎障害の予防法として,造影剤検査前後12時間に生理食塩水1mL/kg/時を輸液する,利尿薬やNSAIDの使用を中止・禁止する,頻回の造影検査を控える,腎機能の厳密なモニターを行うなどが提言されている.透析には造影剤による腎障害を予防する効果は認められないが,造影剤による腎不全やその全身循環管理としての血液濾過や血液透析濾過は腎機能の長期予後や生命予後を改善させる可能性がある.410) ④ MRI 造影剤 重篤な腎障害のある患者にガドリニウム(Gd)造影剤を使用した場合に,腎性全身性線維症(Nephrogenic Systemic Fibrosis: NSF) の発症が報告されている. NSFはGd造影剤の投与後に皮膚の腫脹や硬化,疼痛などにて発症する疾患で,進行すると四肢関節の拘縮を生じる.現時点での確立された治療法はなく,死亡例も報告されている.したがって,使用する前には,腎機能を評価すべきである.NSF発症のリスクの高い腎不全患者,特に長期透析患者,GFRが30mL/min/ 1.73m2未満の保存期腎不全患者,急性腎不全患者には 原則としてGd造影剤を使用せず,他の検査法で代替すべきである.GFRが30 mL/min/1.73m2 以上,60mL/min/1.73m2未満の場合には,Gd造影MRI 検査による利益と危険性とを慎重に検討した上で,その使用の可否を決定する必要がある.使用に当たっては必要最少量を投与すべきである.411) ⑤アロプリノール 腎機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するので減量や投与間隔の延長を考慮する.プロベネシドやベンズブロマロンは腎結石や高度の腎障害のある患者では原則禁忌であり,GFR30mL/min以下の患者には無効である.412) ⑥抗菌薬 多くの抗菌薬は腎排泄であるため,GFR 低下例では薬物の減量が必要である. マクロライド系薬やミノサイクリンは肝排泄のため,腎不全患者での使用法の調節は不要とされている.βラクタム系薬,ニューキノロン系薬は腎機能が中等度に 進行した場合に投与量の変更が必要になる.カルバペネム系薬は腎機能低下時にけいれん誘発の危険性が高まるため,より細かい配慮を必要とする.アミノグリコシド薬,グリコペプチド薬は腎機能障害の早期から用法が厳しく制限される.中毒域と治療域の近い薬剤であるため,TDMを行うことが望ましい.腎機能障害がある場合の減量法として,初回に常用量を投与し,以後は血中濃度半減期ごとに維持量を投与する方法,血中半減期の2~3 倍に間隔をあけて,常用量を使用する方法,使用間隔は変えず,腎機能の程度に応じて1 回量を調節する方法がある.アミノグリコシドは,急性尿細管壊死を起こすことが知られており,患者の10~ 20%に発症する.バンコマイシンでは,間質性腎炎が知られており,一般的にトラフ値を10μg/mL以下に保つことが望ましい.重症感染症など,症例に応じて投薬量を調節する.抗 真菌薬のアムホテリシンBは腎毒性が高いことが知られている.抗ウイルス薬(ガンシクロビル,アシクロビル)は呂律困難や意識障害などの中枢神経障害,腎障害が出現しやすく,減量が必要である412) .また,腎不全患者では,顆粒球減少,汎血球減少などの副作用を起こす可能性があるので注意を必要とする.413)-415) ⑦ジソピラミド・プロカインアミド 抗不整脈薬であるこれらの薬物は腎不全時に活性代謝物が蓄積しやすい薬物に分類されている.ジソピラミドの活性代謝物であるモノ-N- デアキルジソピラミドは 強力な抗コリン作用と血糖降下作用をもち,プロカインアミドの活性代謝物であるN- アセチルプロカインアミドは催不整脈作用を増強させる.⑧ジゴキシン 組織移行性が高く, 心筋や骨格筋に高濃度に分布し,その分布容積が大きいため透析で除去されない.そのためより慎重な投与設計が必要になる.尿中排泄率が70%と高い腎排泄型の薬物のため腎不全患者では食欲低下,視覚障害,不整脈などの副作用が生じやすい.ジゴキシンは腎不全患者で分布容積が低下するため,初回負荷量を通常の50~ 70%に減量する必要がある.ジゴキシンの組織への分布速度は遅く,血中濃度が組織と平衡状態に達するのに6 時間程度要するため, TDMのための採血は服用から6 ~ 8時間後に行う.クラリスロマイシン,ベラパミルなどのP糖蛋白質阻害薬との併用により血中濃度が上昇するため注意が必要である.⑨ アンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジオテンシンレセプター拮抗薬 動脈閉塞や重篤で広範な微小血管変化を伴う腎疾患の場合,これらの薬物がアンシオテンシンの作用を阻害し血行動態を変化させことにより,突然の腎機能低下をもたらすことがある.そのため腎機能をモニターしながら少量から注意深く開始する必要がある.開始後に持続的な腎機能低下を来した場合は使用の中止が必要である.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)