低下する薬物変化しない薬物上昇する薬物
フロセミドピンドロールクロキサシリン
イソニアジドシメチジンジゴキシン
ラベタロールST 合剤オクスプレノロール
プロプラノロールエリスロマイシン
2 薬物動態と腎機能
薬物動態は①吸収,②分布,③代謝,④排泄によって決まる.腎不全患者では,腎からの排泄低下による影響が最も大きいが,吸収,分布,代謝にも変化をきた
し,薬物動態に影響を及ぼすことがある.
①吸収
経口投与された薬物はその一部が消化管から吸収され,肝臓を通過する際にかなりの割合が代謝を受けた後に血中に移行する.薬物が経口・筋注・直腸内投与など非血管外投与された場合に,生化学的に利用できる量として循環血液中に移行する割合と,生物学的利用速度を合わせてバイオアベイラビリティーといい,消化管からの吸収と肝臓を初回通過したときの代謝率により決まる.一般的に,脂溶性の薬物は消化管からの吸収率は高く,水溶性の薬物は消化管からの吸収率が低い.腎不全患者では,一部の薬物でバイオアベイラビリティーが変化することが知られている.表26にその薬物を示した.
②分布
吸収された薬物の一部は血漿蛋白に結合して結合型となり,一部は,血漿蛋白に結合せず非結合型として存在する.一般的に,脂溶性の薬物は組織に移行しやすく,その分血中濃度は低くなるので,分布容積は大きい.水溶性の薬物や,蛋白結合率の高い薬物は細胞外液に多く分布しやすく,組織移行性は低い.そのため血中濃度は高くなるので,分布容積は小さくなる.腎不全患者で分布容積が変化する薬物がある.アミノグリコシド系抗菌薬や多くのβラクタム系抗菌薬,多くの抗ウイルス薬などの水溶性薬物の分布容積は,浮腫や腹水のある患者では増加するため,分布容積の変化に応じた投与量設計が必要になる.例えば,分布容積が0.3L/kgの水溶性薬物を体重50kgの患者にピークの血中濃度を10μg/mLになるように初回投与量を算出すると,上記の関係から初回投与量=0.3L/kg× 50kg× 10mg/L=150mgと算出される.しかし,この患者が浮腫により10kgの体重増加があった場合は,薬物は増加した細胞外液10Lにも分布することから,150mg投与した場合の血中薬物濃度=150mg/(15+ 10)L=6mg/Lと理論上低くなる.一方,ジゴキシンは腎不全で特異的に分布容積が低下する薬物として知られている.通常の薬物投与に際しては腎不全患者でも初回負荷量を減量する事はないが,分布容積が低下するジゴキシンの場合には通常の負荷量の50~ 70%に減量する必要がある.
また,腎不全患者では,血漿アルブミン値の低下,尿毒素物質の蓄積による薬物-蛋白の結合阻害,アルブミンの構造変化などにより蛋白結合率が低下する.蛋白結合率の変化は薬物の分布容積と非結合型の割合を増加させ,肝臓や腎臓からの排泄に大きく影響するため,腎不全患者での薬物の臨床的な効果を予測することを困難にさせている.ジギトキシン,フェニトイン,バルプロ酸などの蛋白結合率の高い薬物を腎不全患者に投与する場合,総濃度が有効治療範囲内であっても蛋白結合率が低下して,非結合型の割合が高くなるため中毒作用が発現する可能性があり,注意が必要である.腎不全患者では多くの酸性薬物で蛋白結合率が低下する.ジソピラミドやリドカインはアルブミン以外の蛋白(α1- 酸性糖蛋白:腎不全患者では健常者の2倍)により強く結合するため,腎不全患者で蛋白結合率が高くなり,総濃度が有効治療域に入っていても十分な効果が得られない事がある.
③代謝と排泄
脂溶性の薬物は,腎より直接排泄されることが出来ないため,肝臓で水溶性の高い代謝物・抱合体になってから,多くは腎臓から排泄される.代謝物が不活性ならば腎機能が低下していても投与量の変更は不要であるが,代謝物に活性がある場合は投与量の変更が必要になる.例えばジソピラミドの活性代謝物の強力な抗コリン作用・低血糖, アロプリノールの活性代謝物の肝障害,汎血球減少,剥離性皮膚炎,プロカインアミドの活性代謝物の催不整脈作用増強などが腎不全患者で問題となる.水溶性の薬物は,腎排泄が代謝の中心であり,肝臓で代謝を受けずに腎臓から排泄されるため,腎不全患者では減量が必要である.基本的には,ほとんど肝代謝を受けない腎排泄型薬物は腎機能と,薬剤の特性をもとに腎不全患者に対する投与設計ができる.しかし,一部の薬物では経口薬のバイオアベイラビリティーの変化,血漿蛋白や組織蛋白との結合性の変化,組織移行性の変化,代謝物の蓄積による種々の影響を考慮する必要がある.
表26 腎疾患におけるバイオアベイラビリティーの変化
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)