3 薬物療法の実際
 溢水の所見が明らかである場合は,利尿薬を投与する.また,慢性的に高血圧がある場合,内膜下組織の細胞増生がおこっているため,急激な血圧低下は虚血をきたし,臓器障害を悪化させる可能性がある368).したがって,緊急高血圧管理では,降下速度を予想できるよう薬品は経静脈投与が基本である.降圧剤投与中は,脳梗塞や虚血性脊髄症・視神経症に注意を要する.

①降圧速度

 一般に6~ 8 時間かけて1/4~ 1/3を降下させ,48時間~72時間かけてゆっくりと90パーセンタイル以下の血圧に調節する370),372),373).脳血流や循環などへの影響を最小限に抑えるため,段階的な降圧を可能とする薬品を選択する.切迫症の中には慢性的に徐々に高血圧が進行した例や降圧薬の内服を継続している例もあるためより緩徐な降圧を要する.

②薬物療法

 本邦では,以下の降圧薬を経静脈的に使用することが多い(class Ⅱ a-C).欧米諸国では,ニカルジピンに加え,α/βブロッカーであるラベタロールの静注製剤が第一選択となっている374). ラベタロールは気管支喘息には使用できないものの,心拍出量にはほとんど影響せずに,数分で末梢血管抵抗を下げる降圧薬である.今後,本邦への導入が期待される.本邦では次の薬剤が用いられる.

1)緊急症
ニカルジピン(ペルジピンⓇ) 1~ 3μg/kg/分
[特徴]数分で効果が表れ,数時間で降圧目標に達する.ニトロプルシドよりも持続使用が可能であるうえ,欧米では早産児・新生児にも有効とされる375)
[注意点]反応性の頻脈,顔面紅潮,動悸,低血圧に注意.
ニトロプルシド(ニトプロⓇ) 0.53-10μg/kg/分0.2μg/kg/分ずつ増量(3 μg/kg/分以下で持続)
[特徴]数秒単位で効果を発揮し短時間作用型である.動脈,静脈ともに拡張作用を持つ.
[注意点]光により失活,脳血流と脳圧を亢進させる.72時間以上の長期使用や肝・腎機能障害での使用の場合はシアンの上昇に注意し,シアン中毒症状が出現した場合はチオ硫酸塩を併用する.2μg/kg/分以上の投与速度で投与する場合は,総投与量が500μg/kg以上になると体内における解毒処理能力を超えてシアンが生成されることが知られているため注意を要する. 

2)切迫症
 切迫症と判断され,急速な降圧を要さない場合は,内服薬投与も選択の一つであるが,初期治療では切迫症でもニカルジピンが使われることが多い.二次性の場合はその病態に合わせて経口可能なら早期にその薬品を使用する.

 その他,以下の薬品が使用可能である.
ニフェジピン(アダラート,セパミットⓇ)0.25~0.5mg/kg/回 経口
[注意点]成人では重症高血圧への使用は脳梗塞と心筋虚血を惹起するため危険とされているが,小児では<0.25mg/kgの少量投与では有効とする報告もある376).しかしながら,現段階ではより調節の容易な薬品が使用可能な場合は推奨されない.(class Ⅱ a-C)
ヒドララジン(アプレゾリンⓇ) 0.2~ 0.6mg/kg/回静注 4 時間毎
[注意点]FDAによる投与量は1.5~ 3.5mg/kg/日であるが,それ以下での使用を推奨377).反応性が不確定であり,作用が遷延するなど調節性に欠ける.ニカルジピンに比較して即効性には劣るが,効果が遷延するため少量から投与する.
クロニジン(カタプレスⓇ)0.05~ 0.1mg/kg/回 経口α 2 agonist であるため一時的に血管トーヌスを亢進させ,その後血圧と脈拍が低下する.
[注意点]効果は不確定だが,30~ 60分で効果が出現し8 ~ 24時間持続する.調節性に欠ける.
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)