4 β受容体遮断薬
β受容体遮断薬にはβ1受容体選択性(心臓選択性)と非選択性がある.
β1受容体選択性薬剤としてはアテノロール,メトプロロール,ビソプロロールなど,非選択性としてはプロプラノロール,カルテオロール,ナドロールなどがある.
適応疾患:洞性頻拍や異所性心房頻拍のレートの減少,心房細動における房室伝導能の低下による心拍数の減少,房室回帰頻拍,房室結節リエントリー性頻拍の停止・予防を目的として使用されるほか,カテコラミン誘発性多形心室頻拍,トリガードアクティビティーが原因と考えられる右室流出路起源心室性不整脈,先天性QT 延長症候群に対して有効である.
①プロプラノロール
静注薬:0.05~ 0.1 mg/kgをゆっくり静注.
経口薬:1~ 4 mg/kg/日(分3 ~ 4)
有効血中濃度:50~ 100 ng/mL.
小児領域で最も使用頻度の高いβ遮断薬である.副作用としては,心収縮能低下,房室ブロック,低血糖,気管支攣縮,中枢神経症状などがある.中枢神経症状と
しては抑うつ症,睡眠障害などがある.気管支攣縮や低血糖の既往がある場合はメトプロロールを,睡眠障害がある場合はアテノロールを使用することが推奨されている.
②アテノロール
経口薬:0.5~ 2 mg/kg/日(分1)
有効血中濃度:200~ 500 ng/mL.
副作用としては初期に疲労感を訴えることがあるが,投与中止を必要とする例はほとんどない.血液脳関門を通過しないため,中枢神経系の副作用はプロプラノ
ロールよりも少ない.
③ナドロール
経口薬:0.5~ 2.5 mg/kg/日(分1)
有効血中濃度:不明.
血液脳関門をほとんど通過しないため中枢神経系の副作用はプロプラノロールよりも少ない.
④メトプロロール
経口薬:1 ~ 2 mg/kg/日(分3)
有効血中濃度:50~ 100 ng/mL.
プロプラノロールと同様に血液脳関門を通過し,片頭痛の治療にも用いられる.副作用はプロプラノロールとほぼ同様であるが,頻度は低い.
⑤ランジオロール
静注薬:2.5μg/kg/分で開始,数分ごと倍々にして最大80μg/kg/分.
推奨薬用量は初期量40μg/kg/分,維持量10μg/kg/分であるが352),3 ~ 5μg/kg/分の低用量で開始して漸増する方法でも早期に十分な心拍数低下効果が得られる可能性がある.血圧低下の副作用は少ない.
有効血中濃度:不明.
わが国で開発されたβ1選択性の高い超短時間作用性β遮断薬で,術中使用に加えて,2006 年に周術期管理における使用が認められた.小児心臓術後頻脈性不整脈の抑制効果が報告されている353).
⑥ ATP
適応疾患:房室回帰頻拍,房室結節リエントリー頻拍(一過性房室伝導抑制),Ca2+依存性のトリガードアクティビティーによる頻脈性不整脈(右室流出路起源心
室頻拍,CPVTなど)に有効とする報告もある.
静注薬:0.1~ 0.3 mg/kg を急速静注.
半減期が短く,できるだけ心臓に近い上肢末梢静脈から,後押しのための生理食塩水などを用いて急速静注する必要があり,末梢循環不全や三尖弁逆流がある と十分な効果が得られないことがある.
アデノシンの抗頻脈性不整脈作用は,K+電流の透過性を高めてAPD を短縮するとともにL 型Ca チャネルの電流を抑制して,洞結節自動能の低下,房室結節伝導の抑制,心房自動能の抑制作用を発揮する.わが国で用いられるのはATPであるが,ATP は血中に投与されるとすみやかにアデノシンに代謝されて同様の効果を発揮する354).
⑦ジゴキシン
適応疾患:房室回帰頻拍,房室結節リエントリ頻拍など房室伝導抑制を目的に使用される.ジゴキシンは副伝導路の不応期を短縮するため,早期興奮症候群(顕
性WPW 症候群)がある場合に心房細動が出現すると偽性心室頻拍,突然死が起こることが懸念されるが355,356),早期興奮症候群の有無にかかわらずジゴキ
シンの安全性を示す報告もある357),358).
静注薬:乳幼児0.04 mg/kg を急速飽和,学童0.03mg/kg を急速飽和(いずれもはじめに半量,つづいて残り半量を2~ 3回に分けて6 ~ 8 時間ごとにゆっくり静
注)
経口薬:乳幼児0.0075~ 0.01 mg/kg/日(維持量),学童0.005~ 0.0075 mg/kg/日(維持量)(分1~ 2).
有効血中濃度:0.5~ 2.0 ng/mL.ジゴキシンは治療域が狭いため血中濃度のモニターが重要である359).急速飽和が必要でないときは初めから維持量を投与す
る方が安全性は高い.
作用:心筋のNa+/K+ ATPase 活性を抑制し,細胞内Na+ 濃度を上昇させ,その結果生じるNa+勾配がNa+-Ca2+交換系に作用して細胞内Ca2+濃度を上
昇させ,心筋収縮性を増強する一方,自律神経を介し,洞結節機能,房室伝導を抑制する.また心房筋のAPD,有効不応期を短縮させる.
注意点;T1/2は乳児で20 時間,小児では40 時間である.腎から排泄され,腎機能障害がある場合や腎機能が未熟な低出生体重児では投与量を減量する.
副作用;心症状;洞性徐脈,房室ブロック,心房頻拍,心室性不整脈など
心以外;悪心,嘔吐,めまい,色覚異常,筋力低下,食指不振,倦怠感などがある.このような症状が見られたときは血中濃度と血清電解質を測定し,特に低カ
リウム血症の補正を行う.一般に中毒は血中濃度2.0ng/mL 以上で起きるが,小児(特に新生児)では中毒発現濃度が成人より高めである.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)