1 薬物療法
 多くの上室頻脈にカテーテルアブレーションが適応となるが,新生児・乳幼児やアブレーションを希望しない例,アブレーションが不成功に終わると予測される例で
は抗不整脈薬による発作の予防を行う.薬物治療は発作停止と再発予防に分けて考える必要がある.

①治療標的

1)WPW 症候群(副伝導路)に伴う房室回帰頻拍
 副伝導路を標的とする場合:Naチャネル遮断薬やKチャネル遮断薬が有効である.房室結節を標的とする場合:Caチャネル遮断薬,β遮断薬あるいはATP 急速静
注が有効である.(クラスIIa レベルC)

2)房室結節リエントリー頻拍
 ATP急速静注,Caチャネル遮断薬,あるいはβ 遮断薬が有効である.(クラスIIa レベルC)

3)心房頻拍
 自動能亢進,トリガードアクティビティー,マイクロリエントリーなどの機序がある.したがってβ 遮断薬,ATP,Caチャネル遮断薬,Na チャネル遮断薬,Kチャネル遮断薬が用いられる.β遮断薬,Caチャネル遮断薬は頻拍停止に有効な場合もあり第一選択薬である.ただし心機能低下を伴う場合,いずれの薬剤も投与量,投与方法に注意を要する.第二選択薬としては,Na チャネル遮断薬(フレカイニド,プロパフェノン,プロカインアミド,キニジン,K チャネル遮断薬(ソタロール,アミオダロン)が用いられる.頻拍停止効果が得られない場合には心室レートをコントロールする目的でジゴキシン,β遮断薬,Ca チャネル遮断薬を用いる.(クラスIIb レベルC)

②その他の頻拍停止

 血行動態が破綻し,緊急性を要する場合,電気的除細動を行う.循環動態が落ち着いている場合,反射性に迷走神経を緊張させる手技(アイスバッグ法など)を試
みる.(クラスIIa レベルC)

③発作予防

① 中等度以上の心機能低下を示し,心電図上頻拍中のP波がQRS 波の直前に確認される場合(心房頻拍の可能性が高い)
  ・陰性変力作用の少ないNa チャネル遮断薬が第一選択となる.したがってβ遮断作用のないNa チャネル遮断薬のうち中間の解離速度を示すプロカインアミド,
   キニジン,アプリンジンが用いられる.(クラスIIa レベルC)

② 中等度以上の心機能低下を示し,頻拍中のP 波が確認できないかQRS 直後に認められる場合(房室結節リエントリー性頻拍または房室回帰頻拍の可能性が高
  い)
    ・第一選択としてジゴキシンが選択される.ただし顕性WPW 症候群を除く.第二選択としてβ 遮断作用のない中間の解離速度を示すNa チャネル遮断薬である
      プロカインアミド,キニジン,アプリンジンを用いる.(クラスIIa レベルC)

③ 心機能低下は軽度もしくは正常で,頻拍中P 波がQRS の直前に確認される場合(心房頻拍の可能性が高い.心房内リエントリー頻拍,洞結節リエントリー頻拍,
    fast-slow型房室結節リエントリー頻拍が含まれるがまれである)
    ・心房頻拍に対してはK チャネル遮断作用のある薬剤か中間もしくは遅い解離速度を示すNa チャネル遮断薬を用いる.(クラスIIa レベルC)

④ 心機能低下は軽度もしくは正常で,頻拍中P 波が確認できないかQRS の直後に確認される場合(房室結節リエントリー頻拍または房室回帰頻拍の可能性が高
    い)
    ・ジゴキシン,β 遮断薬,ベラパミルが用いられる.第二選択薬としては房室回帰頻拍を考慮し副伝導路の伝導抑制を目的に速い解離速度を示すNa チャネル遮断
    薬もしくはK チャネル遮断作用のある薬剤(プロカインアミド,キニジン,ジソピラミド,シベンゾリン,ソタロール)か,中間もしくは遅い解離速度を示すNa チャネル遮
   断薬(ピルジカイニド,フレカイニド,プロパフェノン,アプリンジン)を用いる.(クラスIIa レベルC)
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)