2 薬物治療の実際
 心房細動の治療には心室のレートコントロール,洞調律に戻すリズムコントロールおよび抗凝固療法を考慮する.血行動態が破綻して緊急治療が必須の場合は電気的除細動を行う.ただし抗凝固療法が不十分で血栓,塞栓症のリスクがある場合レートコントロールを優先する.

①心室レートコントロール

 デルタ波のある顕性WPW 症候群や,デルタ波のない場合で治療選択が異なる.

1)デルタ波のない場合
 房室結節伝導の抑制:
 Caチャネル遮断薬,β遮断薬,ジギタリスを用いる.ジギタリスは活動時の心拍抑制作用は弱く,心機能が良好な場合はCaチャネル遮断薬やβ遮断薬を選択し必要
に応じてジギタリスを併用する.心機能低下がある場合はジギタリスが第一選択となる.慢性心不全でカテコラミンが増加しコントロールが不十分な場合は少量のβ
遮断薬の併用も有用である246).急性期にはまず心拍数を90~ 100/分以下にすることを目標とする.急速な徐拍化が必要な場合は静注薬を用いる.(クラスIIa 
レベルC)

2)WPW 症候群の場合
 レートコントロールの標的は副伝導路となり,Na チャネル遮断薬(ピルジカイド・フレカイニド・プロカインアミド等)やKチャネル遮断薬(ニフェカラント・アミオダロン;これらは適応がない)を選択する.急速な徐拍化が必要な場合は静注薬を使用する.房室結節伝導を抑制するジギタリス・Caチャネル遮断薬などは,副伝導路を介する心房からの興奮伝播を促進するため禁忌となる.心房細動から心室細動への移行が危惧されるため予防的には副伝導路に対するカテーテルアブレーションが望ましい.(クラスIIb レベルC)

 成人で慢性期のレートコントロールの目標は,安静時心拍数60~ 80/ 分,中等度の運動時の心拍数90~ 115/分をめざすことが示されている304).新生児・乳幼児では年齢に応じてそれよりも高い心拍数を目標となる.十分なレートコントロールが得られない場合は,他因子(貧血・甲状腺機能亢進症・感染症・痛み・気管支拡張剤用β刺激薬など)の関与を考慮する必要がある.

②リズムコントロール

 基礎心疾患を有さない孤立性心房細動

1)発作性心房細動
 心房細動の持続が7日以内の発作性心房細動ではNaチャネル遮断薬が停止に効果的.解離速度の遅いNa チャネル遮断薬(ジソピラミド・ピルジカイド・フレカイ
ニド等)の除細動効果が高い.(クラスIIb レベルC)

2)持続性心房細動
 心房細動が7 日以上持続しリモデリングの進行した心房ではNa チャネル遮断薬の効果が低く,心機能低下例では副作用を呈しやすいといわれている.アミオダロン・ベプリジル・ソタロールなどのmulti-channel blockerが持続性心房細動の停止に効果があることが示されている246).(クラスIIb レベルC)

3)基礎心疾患を有する心房細動
 基礎心疾患のある場合は,まずその原因を改善する治療を検討する.

③抗凝固療法

 塞栓症を起こしやすい危険因子を持っている場合は原則ワルファリンを投与する.危険因子には塞栓・血栓症の既往,心不全,弁膜症,Fontan術後,高血圧などがある.PT-INR 2.0~ 2.5を目標とする.心房細動が48 時間以上持続した症状では血栓塞栓症の回避のために事前の十分な抗凝固療法が必要である.最低3 週間以上の十分なワルファリン療法または経食道心エコー検査で左心耳内血栓のないことを確認した後に直ちにヘパリン投与を開始して早期に除細動を行う.除細動後に新たに心房内血栓が形成される可能性があり,除細動後最低4 週間はワルファリンを投与し,4 週間洞調律が維持されていれば抗凝固療法を終了してもよい.(クラスIIb レベルC)
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)