カテゴリー主要リスクの数
薬物療法開始を検討すべきLDL コレステロール値
(mg/dL)
目標LDL コレステロール値
(mg/dL)
中程度リスク0 190 160
高リスク1つ以上160 130
2 HMGCoA還元酵素阻害薬(スタチン)
 スタチンは,コレステロール合成系の律速酵素であるHMGCoA還元酵素を競合的に阻害して細胞内のコレステロールプールを減少し,LDL受容体の活性を上昇す
ることにより,血清LDL-C値を低下させる.LDL-C値低下効果は20~ 50%であり,スタチンの種類と用量による.小児に対するスタチンの効果および安全性に関す
る臨床試験の報告があり286)-292),その脂質低下効果と発達,発育を含めた安全性に問題がないことはメタアナリシスでも一定の結論が出ている293).高コレステロール血症の小児に対して,血管内皮機能の改善やIMTの減少に効果があるという報告もある294),295).しかしながら,小児に対する長期の安全性が確立していないことを鑑み,将来の冠動脈疾患進展を予防する効果と,副作用などのリスクとを考慮した上で投薬開始を決断し,副作用の出現には細心の注意をはらう必要がある.IMTなどにより動脈硬化が進行していると評価される例については,積極的な使用が必要である.

 スタチンの小児への使用は,肝機能障害,ミオパチー,稀ではあるが横紋筋融解症などの副作用の発症に留意する他,成長および性成熟についてもモニターする必要がある.スタチンは基本的には10歳未満の小児に使用すべきではない.国内では使用経験は少なく安全性は確立していないが,海外ではFDAが,プラバスタチンについて「8歳以上の小児及び青年期のヘテロFHの治療のために食事および生活習慣の改善の補助として,十分な食事療法を施行後もLDL-C≧ 190mg/dLまたはLDL-C≧ 160mg/dLかつ早発性の冠動脈疾患家族歴または2つ以上の冠動脈疾患危険因子を有する場合に投与」を認可している(表21).アトルバスタチンについては,「10歳から17歳のヘテロFHで食事療法施行後のLDL-Cが190mg/dL以上,あるいはLDL-Cが160mg/dL以上で冠動脈疾患家族歴または2つ以上の冠動脈疾患危険因子を有する場合,投与量は10mg/日を推奨用量とし,最高用量は20mg/日まで,なお用量調節は4 週間以上で行う」ことを認可している296).これは,成人ではアトルバスタチン80mg/日を認可している米国における用量であり,使用する場合は慎重を期する必要があり,用量を増加する際も副作用に十分な注意を払う必要がある.女児に対してスタチンを使用する場合,催奇形性の強い薬剤(FDA分類でX)であることを鑑み297),298),妊娠の可能性には特に注意する必要がある.
表21  カテゴリーリスクに応じた薬物療法開始および目標LDLコレステロール値
薬物療法は,10歳以上の患児について適応を検討する.
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)