2 小児期薬物療法を必要とする疾患―家族性高コレステロール血症
 ホモ接合体は100万人に1人の出現頻度で稀な疾患であるが,小児期に突然死する場合も多い.最も特徴的な外表所見である著明な黄色腫は幼児期には出現する.冠動脈のみならず大動脈弁や大動脈にも病変が出現するため,診断後直ちに心血管病変の検索が行われるべきである.治療としては,スタチンの効果は限定的であり,定期的なLDLアフェレーシスが必要である.早期に開始するほど,大動脈弁上狭窄は軽度となる.LDL受容体活性の欠損程度が治療効果,予後と関連する268).ホモ接合体と症状が類似した疾患に,常染色体劣性高コレステロール血症(ARH), βシトステロール血症がある.ともに,薬物療法が効果的であり,予後が異なることから,確定診断のためのLDL受容体活性検査,遺伝子検査はかかせない.

 ヘテロ接合体は500人に1人の頻度であり,小児期に診断されることも稀ではない.小児症例ではほとんどがIIa型高脂血症を呈するが,年少時は比較的コレステロ
ール値が低く,経過とともに上昇してくる症例も報告されている.特に,新生児期の血清脂質値は正常の場合も多く,診断は困難である269).2歳から18歳の1,000例を超える小児例の報告では,LDL-C値が135mg/dL未満の症例は4.3%であり,近親者での心血管疾患既往がある症例ほどLDL-C値は高値を示す270).HDL-C値,TG値は体格や食事などの影響が大きい.心血管疾患は青年期以降に発症することが多いが,頸動脈内膜中膜肥厚はすでに小児期から認められる271).そこで,小児例に対してもスタチンを用いた薬物療法が試みられ,その有効性と安全性が報告されているが272),長期投与に対する評価はまだ十分とはいえない.高脂血症に対する食餌療法に加えて,運動習慣の獲得,禁煙指導,肥満予防などは動脈硬化進展予防のため,小児症例に対してこそ強調されるべきである273)

 日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド 2008年版による家族性高コレステロール血症(FH)の診断基準によれば,小児の未治療のLDL-C値が140mg/dL以上,160mg/dL以上,180mg/dL以上になるに従い,診断確度が上がること,又本人の角膜輪や早発性冠動脈疾患の項目は除外項目となる.すなわち,小児のFH,特にヘテロ接合体に関しては,LDL-C値と家族歴で診断されることになる.
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)