1 疫学
 動脈硬化の発生には,高脂血症(脂質異常症) などの心血管病の危険因子が関連しており,その動脈硬化病変は,小児期・若年期から始まる265).急速な動脈硬化の進展例としては,高LDLコレステロール血症を示す家族性高コレステロール血症(FH)(小児500人中に1人の割合)がある.FHの動脈硬化の進展速度は遺伝的な背景のない高脂血症に比べて早く,それに伴う臓器障害の程度も強いため,高LDL-コレステロール血症に対する治療は動脈硬化予防を目的としたものとなる.小児期にすでに動脈硬化性変化が生じていることは,Bogalusa Heart Study やPathological Determinants of Atherosclerosis in Youth(PDAY)などの剖検所見
からも証明されており,動脈硬化症のリスクの高いFH患者は,小児期からの予防が極めて重要であると考えられている.

 FHヘテロ接合体患者に対して,小児期においてどのようにスクリーニングをするべきか,いつからどのような治療を開始するべきか,治療の目標をどのように設定
するかについては,コンセンサスを得られていない.

 ホモ接合体(100に1 人)は小児期から黄色腫を呈し,若年性粥状硬化が心血管系を中心に認められ,乳児でも心筋梗塞を起こす.FHホモ接合体に類する疾患として,ARH(常染色体劣性高コレステロール血症)ホモ接合体,βシトステレミアホモ接合体も,同様に小児期から黄色腫や若年性粥状硬化を呈する.

 一般の小児でも,生活習慣により特に飽和脂肪やコレステロールの多い食事の摂取,または肥満などに伴って脂質異常を示すが,これらは一般的に薬物療法の適応にはならず,生活習慣の変更にて対応する.
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)