2 心房細動などの不整脈に対する血栓予防
<推奨>
1. 血栓塞栓症の既往のある症例にはワルファリンの投与を行う(クラスⅠ,レベルB)
2. 人口弁(機械弁)置換術後の患者にはワルファリンの投与を行う(クラスⅠ,レベルB)
3. Fontan手術後に心房細動を伴い,Fontan回路内に血栓が認められた場合には禁忌がない限り線溶療法を行う(クラスⅠ,レベルC)
4. Fontan手術後や弁膜性の心房細動の症例にはワルファリン投与あるいはワルファリンにアスピリンの追加を行う(クラスⅡ b,レベルC)
5. 僧帽弁狭窄,心不全または左室収縮力低下を伴う場合やチアノーゼを呈する病態,高血圧や糖尿病の合併,成人年齢に達した場合には血栓塞栓症のリスクが
高くなるため,適切な抗血栓療法(ワルファリン療法のみ,またはアスピリンの併用)の開始を考慮する.(クラスⅡb,レベルC)
成人と異なり小児では特発性心房細動は稀な疾患であり,多くは先天性心疾患術後の合併症として生じる.そのため小児の心房細動などの不整脈に対する血栓予防に関するエビデンスレベルの高い研究は存在せず,多くの施設で成人のエビデンスや海外のガイドラインを参考にした血栓予防が行われているのが現状であろう.
血栓塞栓症の既往がある症例に関してはワルファリンの投与を行うべきである.また,先天性心疾患の中でも血栓形成傾向の強い循環動態であるFontan型手術後,またはチアノーゼを呈する病態,弁膜性,そして成人年齢に達した場合などに心房細動が確認された場合には発作性,持続性を問わずワルファリン療法(PT-INR1.6~2.5を目標とするが,出血傾向のある時は調整する),またはアスピリンの追加を行う.心房性不整脈の有無にかかわらずFontan型手術後全例にワルファリ
ンを投与している施設ではそのまま継続している.Fontan型手術後でも,成人年齢に達しておらず,運動能良好,Fontan回路内の圧上昇がみられず,血栓もない場合には,心房細動あるいは心房粗動が反復しない限り,アスピリン単独もしくは他の抗血小板薬との併用で経過観察することもあるが,その場合には血栓症の危険
についての十分な説明が必要である.
本邦の成人領域のガイドラインでは,心房細動に対して塞栓症のリスクに応じた抗凝固療法が推奨されており253)-258)小児ではこのような塞栓症のリスクに関するエビデンスはないが,脳梗塞など血栓塞栓症の既往のある患者,僧帽弁狭窄,人口弁(機械弁)置換術後の患者は,成人同様に血栓塞栓症の高リスクと考えられる.また,心不全または左室収縮力低下を伴う場合やチアノーゼに呈する病態,高血圧や糖尿病を合併する場合,そして成人年齢に達した場合には血栓塞栓症のリスクが高くなるため,適切な抗血栓療法(ワルファリン療法のみ,またはアスピリンを追加)を行うことが推奨される.
心房細動以外に血栓塞栓症が問題となるものには,心房粗動,洞不全症候群,ペースメーカ治療後,各種不整脈に対する高周波アブレーション後があるが,小児において抗血栓療法を推奨できるエビデンスはない.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)