冠動脈拡張あるいは冠動脈瘤所見急性期急性期以降(回復期)なし
小動脈瘤または拡大: 内径4mm以下の局所性拡大所見, 年長児(5 歳以上)で周辺冠動脈内径の1.5 倍未満のもの
アスピリン30 ~ 50mg/kg/日,分3
心エコー検査,選択的冠動脈造影検査等で得られた所見による重症度分類
中等瘤: 4mm< 内径≦8mm
年長児(5 歳以上)で周辺冠動
脈内径の1.5 倍から4 倍のもの
アスピリン30 ~ 50mg/kg/日,分3+
抗血小板薬: ジピリダモール2 ~ 5mg/kg /日,分3 や 塩酸チクロピジン5 ~ 7mg/kg /日,分2,あるいは硫酸クロピドグレル1mg/kg/日,分1(0~ 24 ヶ月の乳幼児は0.2mg/kg/日,分1) を追加,
あるいは抗凝固薬(ワルファリン 0.05 ~0.12mg/kg/日,分1,PT-INR1.6 ~ 2.5)を追加.
Ⅰ. 拡大性変化がなかった群: 急性期を含め,冠動脈の拡大性変化を認めない症例
Ⅱ: 急性期の一過性拡大群: 第30 病日までに正常化する軽度の一過性拡大を認めた症例
アスピリン3~5mg/kg/day 分1×3 ヵ月間所見が消失するまで抗血小板薬(アスピリン3 ~5mg/kg/日,分1 など)を継続
アスピリンなどの抗血小板薬を継続.巨大冠動脈瘤や冠動脈瘤内血栓例には抗凝固薬も併用して継続.
Ⅲ. Regression 群: 第30 病日においても拡大以上の瘤形成を残した症例で,発症後1 年までに両側冠動脈所見が完全に正
常化し,かつV 群に該当しない症例
Ⅳ. 冠動脈瘤の残存群: 冠動脈造影検査で1年以上,片側もしくは両側の冠動脈瘤を認めるが,かつV 群に該当しない症例
Ⅴ . 冠動脈狭窄性病変群: 冠動脈造影検査で冠動脈に狭窄性病変を認める症例
( a) 虚血所見のない群: 諸検査において虚 血所見を認めない症例
( b) 虚血所見を有する群: 諸検査において 明らかな虚血所見を有する症例
巨大瘤: 8mm< 内径
年長児(5 歳以上)で周辺冠動脈内径の4 倍を超えるもの.
アスピリン30 ~ 50mg/kg/日,分3+急性期に未分画ヘパリンを使用し,抗凝固薬(ワルファリン 0.05 ~ 0.12mg/kg/日, 分1 PT-INR1.6~ 2.5)に移行.
急性心筋梗塞発症あるいは冠動脈の急激な拡大に伴う血栓様エコーの出現
●抗血小板薬(アスピリン,ジピリダモール,パナルジン)
ClassⅠ 重症度分類 Ⅳ,Ⅴ
ClassⅡ 重症度分類 Ⅲ
ClassⅢ 重症度分類 Ⅰ,Ⅱ
●抗凝固薬(ワルファリン)
ClassⅠ 重症度分類 Ⅳ,Ⅴ
ClassⅡ 重症度分類 Ⅲ
ClassⅢ 重症度分類 Ⅰ,Ⅱ
1 川崎病
<推奨>
1. 急性期の有熱時には中等量のアスピリン(30~50mg/kg/日,分3)を投与し,解熱後には低用量アスピリン(3~ 5mg/kg/日,分1)を投与する
(クラスⅠ, レベルC).
2. 急性期を過ぎても(回復期),低用量アスピリン(3~ 5mg/kg/日,分1)を2~ 3か月間投与する(クラスⅠ, レベルC).
3. アスピリンの投与が禁忌の症例では急性期にフルルビプロフェン(3 ~ 5mg/kg, 分3 経口投与 )を投与する(クラスⅡa’,レベルC).
4. アスピリン治療期間中,イブプロフェンや他の非ステロイド性抗炎症薬を併用しない(クラスⅡ a’,レベルC)
5. 冠動脈病変の存在する症例には低用量アスピリン3 ~ 5mg/kg/日,分1の投与を継続する(クラスⅠ,レベルC).さらに冠動脈病変の重症度によって,低用量
アスピリンとワルファリンの併用や,低用量アスピリンと硫酸クロピドグレル,塩酸チクロピジンやジピリダモールなどの抗血小板薬の併用を考慮する
(クラスⅡa’,レベルC)
6. 巨大冠動脈瘤を伴った症例では低用量アスピリンとワルファリンを併用する(クラスⅡa’,レベルC).
7. 心筋梗塞発作時には経皮的冠動脈内血栓溶解療法や抗凝固療法の継続を考慮する(クラスⅡa’,レベルC).
①急性期の抗血栓療法
アスピリンの投与量は,海外では急性期の14日間まで高用量(80~100mg/kg/日) 投与が推奨されている247).我が国でもガンマグロブリン療法が開始される
以前は高用量投与が行われていたが,現在は中等量(30~ 50mg/kg/日,分3)投与が一般的な治療法として推奨されている.診断時に肝機能障害を認める場合やアスピリン使用中に肝機能障害が出現した場合は,代替薬としてフルルビプロフェンを用いる.小児では3~ 5mg/kg/日,分3 が一般的な用法・用量である.
急性期以降は冠動脈障害のない症例においても概ね3 か月間低用量アスピリン3 ~ 5mg/kg/日,分1 を投与する.これは,発症後3か月間程度,まれには数か月~1年にわたって血小板機能が亢進した状態が持続するためである248)-251).イブプロフェンや他の非ステロイド性抗炎症薬の併用はアスピリンの効果を妨害する可能性があるため,これらの薬剤は避ける.
②冠動脈病変を伴った患者における抗血栓療法
冠動脈病変を伴った川崎病患者における血栓予防のエビデンスとなりえる前方視的なデータはない.よって推奨は病態生理学的知識や川崎病の小児における後方視的な症例検討,冠動脈疾患をもった成人の経験からの推定に基づいている.
冠動脈瘤を形成した症例では,瘤のサイズに関わらず抗血小板薬を継続して投与する必要があり,低用量アスピリンの投与が標準的治療である.一方,抗凝固薬の適応は,中等~巨大冠動脈瘤形成例,急性心筋梗塞既往例,瘤内の血栓形成疑い例などに限られる.巨大冠動脈瘤における血栓形成の予防にはアスピリンなどの抗血小板薬のみでは不十分であり,ワルファリンの併用が必須である.低用量アスピリンとワーファリン併用療法の有用性は多く報告されており,コンセンサスの得られた抗血栓療法のRegimenである.日本循環器学会(JCS)の川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)220)では,重症度- Ⅲ(regression群:30病日に動脈瘤を残すが,発症後1年以内に完全に正常化し,かつ狭窄性病変を残さないもの)ではアスピリン,ジピリダモールを用い,重症度に応じて塩酸チクロピジンを加える.重症度- Ⅳ(冠動脈瘤の残存群:1 年以上経ても冠動脈造影で冠動脈瘤を認めるが,狭窄病変のないもの),重症度- Ⅴ(冠動脈造影検査で狭窄病変を認めるもの)ではワルファリンを加える(表15,図13).2004年のAHAのガイドラインでも巨大冠動脈瘤例や狭窄性病変の合併例に対する血栓予防の最も一般的な治療は,アスピリンとワルファリンの併用である(レベルC)252).
わが国の多施設共同研究として巨大冠動脈瘤例に対してワルファリンとアスピリンを3か月以上併用している83例を対象に後方視的に検討を行った結果,心イベン
ト回避率(臨床的心筋梗塞あるいはそれを防ぐための冠動脈内血栓溶解療法を心イベントとする)は1年の時点で92.5%,10年で91%と良好な成績が得られており,
巨大冠動脈瘤例でのアスピリンとワルファリンの併用療法は出血の合併症を伴う危険性はあるものの心イベントを抑制するのに有用である240()クラスⅡa, レベルC).アスピリン・ワルファリン併用療法の期間については,現在のところ一定した見解はない.
③急性心筋梗塞に対する再灌流療法245)
できるだけ早期に再灌流に向けた血栓溶解療法あるいは冠動脈インターベンションを開始することが急性期治療として重要である.しかし,小児に対するエビデンス
レベルの高い研究はなく,長期的な予後も不明である.また,小児に対する薬剤投与量の基準は定まっていないため,投与に際しては症例ごとに慎重に判断する必要がある.血栓溶解療法の合併症として,カテーテル挿入部位の皮下出血,脳出血,再灌流不整脈に注意する.
表15 川崎病冠動脈病変の重症度分類に対する治療の適応
循環器病の診断と治療に関するガイドライン研究班:川崎病心
臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(JCS2008 年
改訂版)より引用
図13 川崎病における抗血栓療法のアルゴリズム
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)