1 治療目標
 急性期川崎病治療のゴールは“急性期の強い血管炎症状を可能な限り早期に終息させ,結果として合併症である冠動脈瘤の発症頻度を最小限にすること”である.治療は第7病日以前に免疫グロブリン(IVIG: intravenous immunoglobulin)の投与が開始されることが望ましい.

初回治療薬の選択
 現時点で最も信頼できる抗炎症療法は,早期に大量の完全分子型IVIGの静注療法を開始することである(クラスⅠ,レベルA).

 IVIGは用量依存性に川崎病の臨床症状および検査所見をすみやかに沈静化させ,冠動脈病変の発症頻度を低下させることができる最善の治療法である202)-204).特に2g/kg/日の単回投与は分割投与に比し冠動脈瘤形成の頻度も低く,炎症性マーカーを早期に沈静化させる点で有効性が高い204)

 従来から使用されていた経口アスピリンは,通常IVIGと併用するが,欧米で推奨されている80~ 100mg/kgの高用量では肝機能障害や消化管出血の発症頻度が
高く,本邦では抗炎症作用を期待する場合は,30~50mg/kgの中等量で解熱するまで併用投与する.その後,48~ 72時間の解熱を確認し1日量として3~ 5mg/kg/日の低用量(1 回投与)に減量する.冠動脈障害がない例においても低用量アスピリンを発症後6 ~ 8週まで続けることが一般的である(クラスⅡ a’,レベルC).

[適応]川崎病と診断され,冠動脈障害発生の可能性の高い症例に対してIVIGの投与を行う(クラスⅠ,レベルA).2009年に 集計された第20回全国調査成績では,
87%の急性期症例でIVIGが使用されている198).米国のガイドライン205)では川崎病と診断されたすべての患者にIVIGを投与することが推奨されている.

[用量]
IVIG 2g/kg/日を1日,または1g/kg/日を1日または2日連続で投与する.200~400mg/kg/日を3~5日間分割する投与法は現在ほとんど行われない.

 1g/kg/日で明らかな効果が認められた場合には2日間の連続投与を必要としないこともある.第21回全国調査の結果では,投与例の約84.5%は2g/kg/日単回投与を行っており,1g/kg/日× 1日または2日の方法は,13.7%であった198)

 単回投与は製剤間に注入速度の若干の違いはあるが,12~ 24時間かけて点滴静注し,心不全の発症および心機能低下の増悪に十分留意し,投与速度が速すぎないように注意する.また重症度に応じて適宜増減する.投与によるショック,アナフィラキシー様反応や,無菌性髄膜炎等の副反応に対しては十分な観察が必要である.

[禁忌]IVIGに対しショックの既往がある患者.IgA欠損症の患者,腎障害のある患者,脳・心臓血管障害又はその既往歴のある患者,血栓塞栓症の危険性の高い患者,溶血性・失血性貧血の患者,免疫不全患者・免疫抑制状態の患者,心機能の低下している患者には慎重に投与する.

[副作用]これまで本邦においては,IVIGが明らかにウイルス感染を起こしたという報告はないが,血液製剤であるためその適応と投与方法には十分な配慮が必要である.頻度は高くないが,投与による悪寒戦慄,ショック,アナフィラキシー様反応,無菌性髄膜炎,溶血性貧血,血栓塞栓症,肝障害等の副反応に対しては十分な観察が必要である.

 IVIGは安全性と有効性が高い治療法であるが,15~20%はIVIGで解熱しないIVIG不応例であり,冠動脈病変を合併する患者の大部分がIVIG不応例に該当する.
そのため初期治療の強化を試みる臨床研究が近年複数実施された.初回IVIG療法に加えてプレドニゾロン(PSL)を最初から併用すると治療不応例と冠動脈病変合併頻度が有意に減少することが多施設共同前方視的無作為化比較試験で明らかとなり(クラスⅡ a,レベルB)206),さらにIVIG不応予測モデル207)を用いて定義された重症川崎病患者に対してIVIG+PSL初期併用療法はIVIG単独療法に比較して冠動脈病変形成阻止,治療抵抗例抑制効果が高いことが大規模多施設共同前方視的無作為化比較試験による追試で明らかとされた(クラスⅠb,レベルA)208).一方,初回IVIGにメチルプレドニゾロンパルス(IVMP)療法を併用する治療法は,米国での二重盲検無作為化比較試験209)によって否定された(クラスⅢ,レベルB).しかし,本邦ではIVIG不応予測例210)に対する初回IVIGとIVMPの併用は,IVIG単独のhistorical controlに比べ,解熱が早く冠動脈障害(CAL)合併率も有意に少ないこと211)が報告され,小規模の無作為化比較試験212)でも治療抵抗例が少なく冠動脈拡張の程度が軽度であることが報告されている(クラスⅡ a’,レベルB).また,IVIGに加えウリナスタチンを初期から併用するとIVIG不応例や冠動脈病変発生頻度を減少させるという後方視的な研究結果213)も得られている(クラスⅡa,レベルB).

[適応]IVIG不応例であることが予想される重症川崎病患者に対してはPSLをIVIGに加えて初期から併用してもよい(クラスⅠb,レベルA).

[用量]PSL 2mg/kg/日を分3 で経静脈的に投与する.解熱し全身状態が改善した後に経口に変更し,CRPが陰性化した後に同量で5日間継続する.再燃の兆候がなければ1mg/kg/日分2を5日間,0.5mg/kg/日分1を5日間投与後中止する208)

[副作用]ステロイド療法全般に共通するものとして,感染症,高血糖,高脂血症,電解質異常,消化性潰瘍,高血圧,精神障害,大腿骨頭壊死などがある.成長障害,副腎機能抑制,骨代謝異常はないか軽微であると考えられる.

次へ
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)