2 初期治療不応例に対する治療選択
初期治療開始後24~ 48時間においても解熱せず,効果が不十分で不応例と判断された場合,いくつかの治療選択肢がある.これら初期治療不応例に対する治療法について現在さまざまな検討が行われているが,適切なランダム化比較試験が行われていないため,総じてエビデンスレベルは低い.これまでに報告されているものには下記の治療手段が挙げられる.現時点ではIVIGの追加投与が最も多く行われているが,各々が併用されることもある. ① IVIG の1g/kg/ 日ないし2g/kg/ 日(クラスⅡ a’,レベルC) [適応] 再度IVIGを追加することで,抵抗例の約半数には症状改善効果が認められるとされ,全国調査では44%の施設がこの方法を基本としており,全症例の 16.5%が再投与を受けている214) .米国のガイドラインではIVIG不応例に対する治療法として2g/kgのIVIG再投与が第1選択とされている.[用量] 2g/kg/日を1日,または1g/kg/日を1日または2日連続で投与する.[禁忌・副作用] 前述の通りである.② メチルプレドニゾロンパルス療法(クラスⅡ a’,レベルC) [適応] IVIG初回不応例に対するIVMPの効果をIVIG追加と比較した場合,解熱効果は早く,CAL合併率が同等で医療費が安価215)-217) という複数の研究がある(クラスⅡa’,レベルC).三浦ら218),219) はIVIG追加不応例にIVMPを投与しPSLの後療法を行うことで,CAL合併率を低値(0.9%)にすることができると報告した. 米国のガイドライン205) では,IVMPはIVIG 2g/kgを2回行った不応例に限定するべきであると記載されている.[用量] メチルプレドニゾロン30mg/kgを1日1回,1~3 日間とする報告が多い213),215),217) .IVMPの半減期が3時間と短いことから終了後にプレドニゾロンの後療法(1 ~ 2 mg/kg/日で開始し1 ~ 3週間かけて漸減)を行う報告216),218) もある.[副作用] 前述のステロイド療法全般に共通するものとIVMP特有のものに分けられる.後者としては,味覚障害,顔面紅潮,痙攣,洞性徐脈・房室ブロック・頻拍症 などの不整脈などがあげられる.③プレドニゾロン療法(クラスⅡ b,レベルC) [適応] 初回IVIGとの併用療法と同様,IVIG不応例に対する追加治療としてもPSLは有用であるといった報告220) もある.しかし,IVIG不応例に対し病日が進んだ 段階でPSLを投与することは冠動脈病変形成を促進する可能性を指摘する報告221) もある.IVIG不応例に対するランダム化比較試験が実施されていないため,現時点では一定の見解が得られていない.[用量] PSL 2mg/kg/日を分3で経静脈的に投与する.解熱し全身状態が改善した後に経口に変更し,CRPが陰性化した後に同量で5日間継続する.再燃の兆候がなければ1mg/kg/日分2 を5日間,0.5mg/kg/日分1を5日間投与後中止する208) .[副作用] 前述の通りである.④抗TNF α抗体(クラスⅡ a’,レベルC) 2004年Weiss JEによってIVIG不応,PSL不応の川崎病患者に対するインフリキシマブの有効性が初めて報告された222) .その後本邦でもIVIG不応例・ステロイド不応例を中心に使用されるようになった.日本川崎病学会が行った使用実態全国調査の結果では,概ね80%近くの症例に解熱効果があり,使用時期が10病日以前であれば,冠動脈瘤を形成する頻度が低いとする結果がまとめられている223) .現在米国ではIVIG初回投与に抗TNFα製剤を追加する治療法の有用性を検証するため,第Ⅲ相の臨床治験が実施中である.[用量] インフリキシマブ5mg/kgを2時間以上かけて点滴静注する(単回投与).[禁忌] 重篤な感染症,活動性結核,過敏性症例,脱髄疾患,うっ血性心不全の患者.[副作用] 生物学的製剤の使用における小児の安全性の研究成果は報告が少ないが,心不全増悪,悪性腫瘍,infusion reaction,感染症増悪が懸念される. 使用注意事項:投与前に注意深い問診,家族内感染の有無,BCG接種の有無,胸部CTや胸部レントゲン写真での異常所見の有無等を確認することが重要である.特にBCGを接種していない乳幼児への投与は細心の注意が必要である.また生ワクチン接種後は2~ 3か月以上の間隔が必要と考えられているが定説はない.⑤ウリナスタチン静注療法(クラスⅡ b’,レベルC) [適応] 川崎病に対して1993年に初めて使用が報告されて以降223) ,症例報告が相次ぎ①軽症例での単独の効果,②併用によるIVIGの減量効果,③ IVIG無効例・不応例・抵抗例,および再燃例への一部での有効性が指摘されており,不応例に対する代替治療薬の一つとして位置付けられている224) .[用量] 小児用量は確立されていないが,5,000単位/kg/回,3 ~ 6回/日(1回は50,000単位を超えない)を数日間使用することが多い.半減期は,30万単位/10mL 静注で40分である.[禁忌] ウリナスタチン製剤に対し過敏症の既往歴のある患者[副作用] 重大な副作用としてアナフィラキシーショックがある.警告事項として,①薬剤に過敏症の既往歴の患者,②過敏性素因患者,③過去にウリナスタチンの投 与を受けた患者には慎重に投与する.その他の副作用として,肝機能異常,白血球減少,発疹,掻痒感などの過敏症状,下痢,血管痛,一過性AST,ALT上昇,好酸球増多,注射部位の血管痛がある.⑥シクロスポリンA 療法(クラスⅡ a’,レベルC) [適応] 2001年にRamanら225) が,IVIG不応・IMP不応の川崎病症例に対してシクロスポリンA(CsA)の使用経験を最初に報告した.鈴木らは2回のIVIGに不応で あった難治性川崎病28例にCsAを使用し,解熱効果および炎症反応抑制に有効であったことを報告した226) .[容量] 小児用量は確立されていないが,ネオーラルⓇを経口投与4mg/kg/日(目標トラフ値60~ 200ng/mL)で開始する報告が多い.容量は熱型や検査データを参 考として変更する.投与期間は解熱しCRPが陰性化するまで,または2週間を目安とする.[禁忌] CsAに対し過敏症の既往歴のある患者 ,タクロリムス(外用剤を除く),ピタバスタチン,ロスバスタチン,ボセンタン,アリスキレンを投与中の患者,肝臓又は腎臓に障害のある患者でコルヒチンを服用中の患者.[副作用] CsAの一般的な副反応として,腎障害 ,肝障害・肝不全,中枢神経系障害,感染症,進行性多巣性白質脳症,急性膵炎, 血栓性微小血管障害,溶血性貧血・血小板減少,横紋筋融解症,悪性リンパ腫,リンパ増殖性疾患,悪性腫瘍等がある.川崎病患者においては無症候性の高カリウム血症を4割に認めたという報告がある.⑦血漿交換療法(クラスⅡ a’,レベルC) [適応] 城らが1983年に川崎病における血漿交換の有用性を報告した227) .血漿交換療法は血中の炎症性サイトカインやケモカインを体外に除去することによって,高サイトカイン血症およびそれに付随する全身症状を平常化すると考えられている.今川らはIVIG不応例において血漿交換療法はIVIG追加療法と比較して冠動脈病変の発症頻度が優位に低いことを報告している228) .一方,適切なブラッドアクセスの確保や低体重児への応用など技術的な困難さから実施施設は限定される.そのためIVIG不応例における第1選択とはならない.[用量] 置換液を5%アルブミンとし,循環血漿量(BW/13 ×(100-Hct)× 100): BW=体重(kg),Hct=ヘマトクリット値( %)) の約1 ~ 1.5倍を交換量とする. Blood accessとしては,患児の大腿静脈,鎖骨下静脈あるいは外頚静脈に6~ 7 Fr 小児透析用ダブル・ルーメンカテーテルを留置する.施行中には主にヘパリン( 開始時15~ 30U/kg静注,その後15~ 30U/kg/時を持続投与)を抗凝固薬として使用し,活性凝固時間(Activated Clotting Time)を180~ 250 秒にするようにヘパリン量を調整する.また,患児は必要な鎮静を行いベッドにしっかりと固定する.[副作用] 体外循環導入時のショック,ブラッドアクセス挿入時の血管損傷等に注意が必要である.[参考ガイドライン] 1. 川崎病急性期治療のガイドライン(2003年).日本循環器学会 2. 川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2008年改訂版).日本循環器学会 3. Diagnosis, treatment, and long-term management of Kawasaki disease: a statement for health professionals from the Committee on Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawasaki Disease. Council on Cardiovascular Disease in the Young, American Heart Association. (2004年)
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)