3 カルシウム感受性薬
カテコラミン同様にPDE3 阻害薬も心筋細胞内のカルシウム濃度を増加させるため,長期投与により細胞内Ca2+ overloadによる心筋細胞のアポトーシス,壊死,不
整脈誘発のリスクが増す.さらに,Ca依存性の収縮増強は心筋のATP,酸素消費を亢進させるため既に代償機構が破綻している不全心筋に対してより過大な負担を強いることになる.Ca感受性薬は心筋線維ないしはクロスブリッジ連関に直接影響して変力作用を発揮する薬剤で,細胞内Ca濃度を変化させることなく心筋収縮力を
増加させることができ,作用部位によってクラスⅠ(トロポニンCのCa感受性を増強させる),クラスⅡ(トロポニンCのCa感受性に影響を与えることなく直接アクチン線維に作用してアクチン─ミオシン連関を良くする),クラスⅢ(クロスブリッジ連関に直接作用する)の3 種類に分類される119).Ca感受性薬はカテコラミンと異なり,アシドーシスや虚血,スタンニングなど病的状態でも心筋収縮力を増強できるが,細胞内が低Ca濃度であっても心筋線維のCa感受性を増強するので,不全心の拡張機能を悪化させる可能性がある.特にクラスⅢに属する薬剤の副作用として重要であるが,ピモベンダン(クラスⅠ)やレボシメンダン(未承認薬)(クラスⅡ)はPDE3 阻害作用を併せ持つために,拡張機能障害を起こすことはないとされ,臨床的にもこの2 剤が治療薬として用いられている.ピモベンダンはPDE3 阻害作用が強いため,活動電位持続時間の延長によりQT延長を来たす恐れがある.またCa依存性カリウムチャネルを刺激して血管拡張作用も有する.PICO-trialやEPOCH-studyにおいて,ピモベンダン経口投与は心不全患者のQOLを改善させることが示されたが,死亡率の改善を明らかにすることはできなかった119).
クラスⅡに属するレボシメンダン(静注薬)は,Ca依存性にトロポニンCに結合して,カルシウムのトロポニンCへの結合を安定化させるが,結合時間を延長しないため拡張能への影響はなく,酸素消費量も増加させない.さらに,ATP依存性Kチャネルを活性化により血管拡張機能や心筋保護作用も併せ持つ120).ピモベンダンと異なり心不全患者の死亡率低下のエビデンスも得られている121),122).
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)