低血圧頻脈呼吸困難胃腸症状
EF > 40%軽度拡張
良好な右室機能
NoNoNo
YesYes
ACE-I ACE-I Yes No
(BNP↓)
正常Naβ遮断薬
Yes
somewhat
A
ループ利尿薬開始静注利尿薬,
PDE3 阻害薬エピネフリン
補助循環ミルリノン減量(0.33μg/kg/ 分)
48 時間継続
末梢,冷感改善と利尿効果
48 時間以内に症状改善
B C
D
(BNP↑)
SBP<75mmHg( 乳児は65mmHg)
Na
クラス A へクラス C へクラス B へ
4 薬物療法の実際
 急性心不全による入院患者で,低灌流による低血圧,前負荷増大(拡張末期圧増大)に対する静注陽性変力薬は2009年のACCF/AHAガイドラインでは,推奨度クラス1 でエビデンスレベルはCである123).収縮能低下,低血圧,低心拍出量に対する,ミルリノンを含む静注陽性変力薬はクラスIIbでレベル Cとなっている123)

 ESC2008ガイドラインでは急性心不全に対するミルリノン投与はクラス IIbでレベルB,レボシメンダン投与はクラスIIaでレベルBである124).OPTIME-CHF,および21の臨床研究を対象にしたメタアナリシス125)では,慢性心不全に対する経口PDE3 阻害薬の長期投与は予後を不良にすると結論づけている一方で,心収縮能の
維持に対する短期的なPDE3 阻害薬の投与の有用性も明らかにされている.

 小児に対する人工心肺使用の先天性心疾患術後に対するPRIMACORP studyではミルリノンの有用性が示された.人工心肺使用による先天性心疾患手術の6~ 18時間後に心拍出量が低下し,PDE3 阻害薬が心拍出量を改善することから(レベルB~C),小児に対する心臓手術後にミルリノン投与を強く推奨したガイドラインが定められている126),127)(クラスⅡa).

 塩酸オルプリノンは海外での大規模臨床治験は施行されていないが,我が国では特に成人,小児を問わず人工心肺使用による心臓手術後に対する有用性について数多く報告されている.その多くはレベルCであるが,日本循環器学会の「急性重症心不全治療ガイドライン(2006年改訂版)」128)ではミルリノンと同列に記載されている.

 カルシウム感受性薬を考慮した慢性心不全の急性増悪に対する治療アルゴリズムではレボシメンダンが心不全分類B,Cに対してミルリノンと同等に推奨されてい
129)

 肺血管抵抗(PVR)の低下という点ではミルリノンの方が有利と考えられている.特に,複雑心奇形を有する患児では,心血行動態面からPVRの制御を考慮した上
での薬剤選択が望まれる.その意味では,VSD術後などの肺高血圧残存症例,Fontan手術やGlenn手術後のようにPVRを低下させて心拍出量の増加を促し,循環動態の改善を図る症例などがミルリノンのよい適応なり,PVRの低下が望ましくないシャント残存症例などは塩酸オルプリノンの方が有利と思われるが,大規模臨床
治験は施行されていないためクラスⅡb,レベルCである.

 図12に2010年に発表された小児心不全に対する治療アルゴリズムを一部改変して示した113),114).このアルゴリズムではカテコラミン使用の前にPDE3 阻害薬を挙げている.

[用量・使用法]
ミルリノン
 ①初期投与量50μg/kg(10分,小児では省略可),維持投与量0.5μg/kg/分,症状に応じて0.25~ 0.75μg/kg/minの範囲で増量可(薬剤効能書)
 ②心臓手術後の小児
 ・0.3~ 0.6μg/kg/分(初期投与なし)130)
 ・ 初期投与量50μg/kg(30~ 60分), 維持投与量0.375~ 0.75μg/kg/分126),127)
 ③ 初期投与量50~ 75μg/kg,維持投与量0.5~0.75μg/kg/分131)
 ④ 初期投与量50μg/kg(30~ 60分),維持投与量0.25~ 0.75μg/kg/分132)
 ⑤ Paradisisらの生後18時間までの未熟児に対するミルリノン投与による脳血流低下予防の検討では初期投与量として低血圧を避けるため0.75μg/kg/分と少量を
   3時間かけて投与し,維持投与量として0.2μg/kg/分と報告している133).しかし,彼らは新生児心筋ではPDE活性が低く,ミルリノンの強心作用は成熟心より弱
   いと考察している.この研究でミルリノンが未熟児の動脈管閉鎖を遅らせることも報告している.

塩酸オルプリノン
 ① 初期投与量(成人):10μg/kg(5分間),維持投与量0.1~ 0.3μg/kg/分.0.4μg/kg/分まで増量できる128)
 ② 心臓心術後の小児:初期投与量10μg/kg(20μg/kgでは心拍数の増加による酸素需要量が増加するため)134)

ピモベンダン
 ① 成人急性心不全:1回2.5mg.病態に応じて1日2回経口投与することができる.
 ② 成人慢性心不全(軽症~中等症):1回2.5mgを1日2 回.年齢,症状により適宜増減.
 ③ 現在のところ低出生体重児,新生児,乳児,幼児または小児に対する適性は投与量の報告はない.

[使用上の注意事項]
禁忌
 ・ 閉塞性肥大型心筋症(流出路閉塞が悪化する可能性がある): ミルリノン,塩酸オルプリノン
 ・ 妊婦または妊娠している可能性のある婦人:塩酸オルプリノン(動物実験で胎児発育遅滞),ピモベンダン(禁忌に挙げられていないが,ラットに対する初期投与試
  験で胚死亡率の増加,出生体重の低下が認められる)

重大な副作用
 ・ 心室細動,心室頻拍(Torsades de pointesを含む)(0.1~ 5%未満):ミルリノン,塩酸オルプリノン,ピモベンダン
 ・ 血圧低下(0.1~ 5%未満):塩酸オルプリノンはミルリノンに比べて血圧低下作用が強い
 ・ 腎機能の悪化(0.1~ 5%未満):ミルリノン,塩酸オルプリノン,ピモベンダン.特に利尿薬との併用する際,利尿が促進され脱水傾向になることがある.
 ・ 頻脈,上室または心室期外収縮などの不整脈(0.1~ 5%未満)
 ・ 血小板減少(0.1~ 5%未満):塩酸オルプリノンはミルリノンに比べて血小板減少作用は弱い
 ・ 低酸素血症(0.1%未満):血管拡張作用により肺内シャントが増加し,PaO2の低下を来たすことがある.
 ・ 肝機能障害(頻度不明):ピモベンダン

基本的注意点
 ・ 重篤な不整脈のある患者では症状を増悪させることがある.
 ・ 腎排泄型薬剤のため,腎機能が低下している患者では血中濃度が高くなる恐れがある.
 ・ 循環血液量が欠乏している状態では,前負荷が減少して過度の低血圧を生じやすい.循環血液量が十分保たれた状態で投与することが望ましい.
 ・ 心不全患者の不整脈を助長する可能性がある
 ・ 高度の大動脈弁狭窄・僧帽弁狭窄がある患者では改善がみられない可能性がある.
 ・ 慢性心不全の場合,長期予後に対する安全性は確立されていない:ピモベンダン
 ・ 投与中は授乳を避けること:ミルリノン,塩酸オルプリノン,ピモベンダン
 ・ 他の注射薬と混合せずに用いることが望ましい.
 ・ ミルリノンとの配合変化が確認されている薬剤:フロセミド,ブメタニド,カンレノ酸カリウム,ピペラシリンナトリウム,ジベカシン硫酸塩,リン酸ピリドキサール,ジア
  ゼパム,炭酸水素ナトリウム
 ・ 塩酸オルプリノンとの配合変化が確認されている薬剤:カンレノ酸カリウム,ウロキナーゼ,フロモキセフナトリウム

図12 心不全治療のアルゴリズム
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)