3 妊娠・授乳期の薬物療法に対する母児のリスク・ベネフィト評価の重要性
1950年代後半から1960年代へかけて人類が経験したサリドマイド禍の教訓により,医療従事者はもとより一般の妊婦にも薬物の催奇形性に関する認識が普及し,むしろ過剰な不安を抱く傾向がある.第二のサリドマイド禍を避けるための慎重な配慮の一方で,胎児への影響を懸念するあまり必要な処方が控えられることによる母児の不利益は避ければならない.不整脈,高血圧,糖尿病,けいれん性疾患などを合併する妊婦の薬物療法において,母体の治療が胎児の発育環境を良好に保つことに繋がり,母子の健康にベネフィトを提供することが証明されている.こうした利益を最大限に確保するためには,薬物の催奇形性・胎児毒性を適正に評価し,母体治療上の必要性を満たし母児への危険度が低い薬物を選択するとともに妊婦に対する服薬カウンセリングを適切に行う必要がある.
また,母乳保育においても,経母乳的に乳児が摂取する微量の薬物の影響を過大に評価して,母乳保育のメリットが得られなくなることは避けるべきである.授乳期
の薬物療法では,科学的根拠に基づく授乳可否の判断がなされ,医療関係者間だけでなく両親にもその情報が共有されることが重要である.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)