3 新生児未熟児の低血圧の治療
治療法は病態に応じ,容量負荷,カテコラミン,ステロイドなどが中心となる.
①容量負荷
容量不足による低血圧では生食10~ 20mL/kg(正常新生児の循環血液量は80mL/kg)がまず推奨される581).(クラスⅡa,レベルB)生食はアルブミンと同等の効果があり,輸血製剤の感染のリスクを考慮しなくても良い582).(クラスⅡb,レベルB)
②カテコラミン
アドレナリン受容体に結合してα 1刺激で末梢血管の収縮,β 1刺激で心筋収縮力の増強と心拍数の増加,β2刺激で末梢血管の拡張(気管支の拡張),またドパミ
ン受容体(DA)に結合してその刺激で腎動脈拡張などの作用を有する.一般に低血圧や心収縮力の低下で使用され,新生児領域では最も使用頻度が高い.
1)塩酸ドパミン
塩酸ドパミンは低用量(0.5~ 5 μg /kg/分)で腎血流を増加させ(DA作用),中等量(5 ~ 10μg/kg/分)で心収縮力を増強させ(β1作用),高用量(10~20μg/
kg/分以上)で末梢血管の収縮を来たす(α 1 作用).一般的には1~5μg /kg/分で使用することが多い578).(クラスⅡ a,レベルB)高用量では血圧上昇がみられるが,必ずしも心拍出量や心機能の改善につながらない583).
2)塩酸ドブタミン
塩酸ドブタミンはβ 1 への選択的作用が強く,心収縮力を増強させ,心拍出量が増加するため,収縮不良な心不全に有用である575).DOA同様1~ 20μ g /kg/分で使用することが多い(クラスⅡ a,レベルB).高用量で心拍出量やSVC血流量の増加が認められた579).しかし,ドパミンとドブタミンとの比較では新生児期死亡率や脳室周囲白質軟化症や脳室内出血などの神経合併症では有意差はないとの報告がある584).
3)塩酸イソプロテレノール
塩酸イソプロテレノールはβ 1 β 2刺激作用が強く,心拍数の増加が著しいため徐脈傾向の心不全(房室ブロックなど)に使用される.力価はDOA,DOBの100倍で
あり,投与量はDOA,DOBの1/100の0.01~ 0.2μ g/kg/分で使用することが多い(クラスⅡb,レベルC).
4)アドレナリン
アドレナリンはもっとも強力な内因性カテコラミンである.心収縮力や心拍出量とともに心拍数の増加も著しい.低用量ではβ刺激作用があり,体血管や肺血管の
拡張作用がある半面,高用量ではα作用が強くなり肺血管以上に体血管抵抗の増加を伴う585).新生児領域におけるsystematic reviewは少ない586).新生児仮死に対する新生児蘇生法において推奨されているアドレナリンの用量は,静注で0.01~ 0.03mg/kg,気管内投与で0.05~ 0.1mg/kgであり,それぞれ生理的食塩水で10倍希釈して使用する587),588).(クラスⅡ a,レベルB)
③ステロイド治療
新生児未熟児の難治性低血圧には相対的副腎機能不全が介在しているとの評価から,ステロイド補充療法が奏功する場合がある.グルココルチコイドは心筋のアドレナリンレセプターを調節する作用があり,病的新生児で発生するカテコラミンのダウンレギュレーションを改善する作用があるというがその機序は不明な点が多い589).
ハイドロコーチゾンは容量負荷やカテコラミンに不応性の難治性低血圧に有効である.通常,正常血圧を保つのにドパミンで15μg /kg/分以上必要な場合にカテコ
ラミン不応性と解釈される590).ハイドロコーチゾンは心機能や臓器血流を改善しなくとも1mg/kgの使用で血圧を上昇させる591).(クラスⅡb,レベルB)
ステロイドを使用している新生児では高血糖や易感染性,骨粗鬆症,発育抑制などの副作用の発現に注意が必要である.また,ステロイドとインドメタシンの併用は
消化管穿孔のリスクが高くなる590).(クラスⅡb)
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)