患児の生後時間に応じて下記の用量を12~24時間間隔
で通常3回投与する
初回投与の生後時間
投与量(mg/kg)
1回目2回目3回目
生後48時間以内0.2 0.1 0.1
生後2~7日未満0.2 0.2 0.2
生後7日以上0.2 0.25 0.25
2 診断指針
①身体所見
直接的な診断はパルスドプラー,カラードプラーなどの心エコー検査によりなされる.身体所見として①胸部X線による心胸郭比の拡大 ②心雑音 ③心拍数増加
④脈拍(bounding pulse の有無) ⑤precordial pulsationなどが代表的である561).(クラスⅡa)その他,⑥脈圧の開大 ⑦胸部X線上の肺うっ血 ⑧呼吸不全・無呼吸⑨乏尿 ⑩体色不良 ⑪肝腫大 ⑫代謝性アシドーシスなどが挙げられる562).(クラスⅡb)しかし,動脈管径が大きいとかえって心雑音は聴取しない.
②心エコー所見
心エコーでは,①内径の大きさ(カラードプラーによる血流の幅)②Mモード法による左房/大動脈径の比,③左室拡張期末期径,④パルスドプラーによる短絡の血
流パターン,⑤下行大動脈の拡張期血流の途絶または逆流,⑥左右肺動脈拡張期血流速度またはその収縮期血流速度との比などが観察項目としてあげられる.(クラスⅠ)
③治療指針
プロスタグランディン合成阻害薬,即ちシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤(インドメタシン,イブプロフェンなど)による薬物治療が有効であり,外科的結紮術が施行される前に試みられるのが一般的である.日本未熟児新生児学会における「医療の標準化検討委員会」から根拠に基づく診療ガイドラインが作成されている563)
(http://plaza.umin.ac.jp/~ jspn/PDAkirokusyuu.pdf).
1)COX 阻害剤による薬物学的閉鎖
治療が必要なPDAを症候性PDAと呼ぶ.インドメタシン静注療法は我が国でも未熟児PDAに対して保険適応となり,現在,COX阻害剤による薬物学的閉鎖の主
流といえる.使用量・使用方法を表42に示す.その有効性は認められるものの,副作用の発現率は約半数と無視できない.(クラスⅡa)我が国では副作用の発現と
PDA収縮の効果をみながら2回目以降の投与を決めることを推奨している.投与量について,初回は0.2mg/kgが一般的である.インドメタシンの副作用としては乏尿,
時に腎不全,低血糖,出血傾向,消化管出血,時に消化管穿孔,NEC,非抱合型ビリルビンの上昇などがあげられる.インドメタシン静注療法は閉鎖についての有効
性はあるものの,早期投与群で合併症が増加すると結論するものから,慢性肺疾患(CLD)罹患率が低下すると結論するものまであり,結果は一定ではない.結論と
して,COX阻害薬は経過観察に比し,有意に閉鎖率を上昇させ,外科治療の必要性を低下させた一方で,死亡率や精神運動発達には有意差を認めなかったとある564).
症候性未熟児PDAに対する初期治療として,COX阻害薬投与は経過観察(COX阻害薬以外の内科的治療)よりも奨められる563).(クラスⅠ,レベルA)
投与量と投与間隔については1回量0.1~ 0.2mg/kg 12~ 24時間毎投与が多い.持続静注(0.4mg/kgを36時間かけて持続投与)と間欠的急速静注(初回0.2mg/kg以後0.1mg/kgを2 回12時間毎に急速静注) を比較したsystematic reviewではPDAの治療効果や副作用に差異はないものの,間欠的急速静注の方が,エコーにおいて腎・脳・上腸間膜動脈のドップラー動脈血流速度が一時的に低下するという565).投与回数についてはインドメタシンの3回以内の群と4 回以上投与の群を比較した結果,両群で動脈管閉鎖率,再開存率,結紮術施行率に差異はなかった560).以上より症候性未熟児PDAに対するインドメタシンは,0.1~ 0.2mg/kg/回を12~ 24時間毎に連続3回までの静脈内投与が奨められる563).(クラスⅠ,レベルB)
2)予防的投与
症候化する前の予防的治療と,症候性PDAに対する治療のどちらがより良い予後を得られるかについても議論があるところであり,施設によりそれぞれ治療基準が
設けられているのが現状である.予防投与は症候性PDAの発症,動脈管結紮率,急性期の重度の脳室内出血(IVHのⅢ度・Ⅳ度)などで有意な減少を認め,短期
予後に関して有効である566),567).長期的精神発達予後については改善傾向が認められる報告もあり568),より低出生体重のグループにおいては脳性麻痺の減少を示している569).しかし,長期的に神経発達障害の発生に関与せず,後遺症なき生存例の増加には寄与しなかったとの報告もある570).
未熟児PDA予防のための生後早期予防的投与は奨められる.ただし,各施設の症候性PDAやIVHなどの発症率や自施設で結紮術が可能かを踏まえた上で,投与適応を決定することが必要である563).(クラスⅠ, レベルB)
予防投与を行う場合,生後6時間以内に0.1mg/kg/doseを,6時間の持続静注により投与することが奨められる.閉鎖が得られない場合,24時間毎に3回までの投与を考慮する563).(クラスⅠ,レベルA)
3)外科的結紮術
我が国では結紮術は最終的な治療法である.結紮術可能な施設が限られている現状では早期に結紮術を選択する方法は浸透しにくい.しかし,薬物療法に固執するあまり手術の時期を失することも避けねばならない.手術適応は第一にCOX阻害剤が無効な症例と,次にCOX阻害剤の使用禁忌に相当する場合である.(クラスⅡ a)我が国での周産期母子医療センターネットワークの観察研究では,手術件数の多い施設での手術治療ほど退院時死亡を少なくする可能性が報告された571).COX阻害剤と外科的治療との比較では死亡率や慢性肺疾患,壊死性腸炎,重篤な頭蓋内出血に頻度の差はないが,外科治療で気胸と未熟児網膜症の発生頻度が上がるとの報告がある564).
心不全があり,NECや腎不全を合併した状況では,施設毎の手術に関わる総合的リスクを考慮した上で,迅速に手術決定することを奨める563).(クラスⅡ a,レベ
ルC)
可能な限り手術件数が多い施設で治療を行うことが望ましい563).(クラスⅡb,レベルC)
表42 インダシン静注用®の用法・用量
⑴ 投与後に無尿または著明な乏尿が(尿量:0.6mL/kg/時未満)が現れたら腎機能が正常化するま
で次の投与は行わないこと
⑵ 1回目あるいは2回目の投与でPDAの閉鎖が得られた場合は,以後の投与は行わずに経過を観
察しても差し支えない
⑶ 投与終了後48時間以上経過してPDAが閉鎖している場合は追加投与の必要はない
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)