12 ロクロニウム
[適応]
 成人では全身麻酔時の筋弛緩,気管挿管時の筋弛緩.(新生児,幼児,または小児は慎重投与をされている).

[用量]
 成人には挿管用量としてロクロニウム臭化物0.6mg/kgを静脈内投与し,術中必要に応じて0.1~ 0.2mg/kgを追加投与する.成人ではプロポフォール麻酔下でロク
ロニウム0.6,0.9mg/kgを投与した際の作用発現時間はそれぞれ85秒と77秒である.セボフルラン麻酔下のロクロニウム0.6,0.9mg/kgを投与後の平均作用持続時
間は53分と73分である. ロクロニウム0.6mg/kg投与後0.1mg/kgを筋弛緩維持のために追加投与した際の作用持続時間は平均23分である531).0.9mg/kg以上投与する場合は作用時間の延長に注意する486).持続注入により投与する場合は,7 μg/kg/minの投与速度で持続注入を開始する.小児では0.6~ 0.8mg/kgが挿管時に用いられる.成人に作用発現時間が短く,作用持続時間も短い.挿管時の投与用量が多いほど,回復に時間がかかり,特に新生児,乳児では,小児に比しその作用時間は長いが,2 歳以上の小児では成人と比べ回復時間が早いとされる.イソフルラン,セボフルランなど他の吸入麻酔薬,カリウム排泄型利尿薬,アミノグリコシド系,リンコマイシン系,ポリペプチド系などのアシルアミノペニシリン系の抗生物質,MAO阻害薬,プロタミン製剤,β 遮断薬,リドカイン,ブピバカイン,メトロニダゾール,カルシウム拮抗薬,シメチジン,マグネシウム製剤,キニジン,キニーネ,リチウム製剤フェニトインにより作用は増強される.カルシウム製剤,カリウム製剤,
プロテアーゼ阻害薬や副腎皮質ホルモン薬,抗癲癇薬の長期投与により作用が減弱することがある.スキサメトニウム投与後に投与すると作用が増強するが,本剤
投与後にスキサメトニウムを投与すると本剤の作用が増強または減弱する.非脱分極性の他の筋弛緩薬を逐次使用した場合,最初に用いた筋弛緩薬の作用が影響するため,投与順によって作用が減弱あるいは増強する486).ロクロニウムは体内で代謝されずその70%以上は胆汁中に,30%以下が尿中に排泄される532).理論上の代謝産物は17-OH体のみであるが,力価は本剤の1/20であり,ヒトでは検出されない533).肝,腎機能の低下した患者では作用が遷延する.

[禁忌]

 本剤の成分または臭化物に対し過敏症の既往歴のある患者.

[副作用]
 ショック,アナフィラキシー様症状を呈することがある.気管支喘息の患者では喘息発作,気管支痙攣を起こすことがある.筋弛緩作用の遷延,横紋筋融解症の発症
の可能性がある.

 注射時に疼痛が認められ,小児では80%以上に注入部の逃避反応が見られる534).神経筋疾患の患者ではさまざまな反応を示すため,十分注意して用いる.重症筋無力症,Eaton-Lambert症候群の患者では感受性が極めて高いため反応を見ながら少量より用いる486).作用時間は個体差が大きい486)ため投与時には筋弛緩モニターを用いた客観的評価を考慮する.

[使用上の注意点]
 本薬物に特有ではないが,他の非脱分極性筋弛緩薬を長期投与された重症の新生児,乳児に難聴を生じたという報告がある.成人では筋弛緩モニターの使用が推奨されるが,新生児,乳幼児では,通常の状態でもテタニー刺激によって減衰が生じることもあり,新生児,乳幼児における本モニターの有用性は不確実である.
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)