意識障害・末梢循環不全の有無評価
気道確保・PALS ガイドラインに従った輸液ライン確保
生理的食塩水20mL/Kg(合計最大60mL/Kg まで)
低血糖・低Ca 血症の補正
(適応があれば)抗生剤投与
PICU 収容
中心静脈確保
Dopamine もしくはDobutamine 開始
動脈圧観血的モニタ
エピネフリン・ノルエピネフリン滴下
Scv O2Sat >70%
ハイドロ
コーチゾン
投与検討
血圧正常
Scv O2Sat < 70%
低血圧
Scv O2Sat < 70%
低血圧
Scv O2Sat ≧ 70%
3.3 <CI < 6.0 L/ 分/m2
ECMO 考慮
血管拡張剤追加
PDE 3 阻害薬+負荷輸液
負荷輸液
エピネフリン
負荷輸液
ノルエピネフリン
改善
改善改善
No
No
No
No
Yes
4 薬物療法の実際
 ACCM-PALSガイドラインでは,心原性ショックの治療においてはショックの早期診断と急速輸液が最も重要であると強調している470)(図25)

 左室容量負荷を伴う場合や左室充満圧の低下を輸液(必要に応じ輸血)で補正しても血圧低下が続く場合には,カテコラミン投与が行われる.カテコラミンは半減
期が2~ 3分と非常に短く,かつ強力な心筋への陽性変力作用をもつ.その作用は細胞内Ca濃度を上昇させるか感受性を亢進させることにより発揮されるが,先天性
心疾患,心臓移植後,気管支肺異形成の患者などでは交感神経感受性が低下していることも多く,効果が不十分な場合いくつかのカテコラミンを併用する必要がある.しかし心原性ショックに対する心血管作動薬は予後を改善するか未だ不明で,不整脈の誘発などにより予後を逆に悪化させることさえ懸念される471).ノルエピネフリンはドパミンより昇圧作用が強いが,その使用による血圧維持が予後改善に有用であることを証明した研究はない.

 長年にわたり心肺蘇生後や代謝性アシドージスに際しアルカリ化剤が投与されてきたが,予後が改善するというエビデンスはなく,むしろ病態の悪化さえ懸念される.組織潅流と呼吸が適切であれば炭酸水素ナトリウムなどアルカリ化剤は通常必要ないとされ,したがってアルカリ化剤の投与よりアシドージスの原因となっている病態を改善することに注力するべきである472).同様にショックの小児におけるステロイド療法が有効であるというエビデンスはない.現時点ではカテコラミン投与に不応で副腎不全が強く疑われる症例にのみハイドロコーチゾンの適応があるとされる(クラスII,レベルC).さらに,心肺蘇生後の小児では,明らかな低Ca血症,Ca拮抗薬の過量投与,高Mg血症,低K血症がなければCa製剤の投与は推奨されない459)(クラスIII,レベルB).

①酸素(クラスⅠ,レベルB)

 十分な酸素投与を行うことは極めて重要である.気道確保や呼吸状態を評価している間には原則として100%酸素を投与する.バッグ&マスクで呼吸を補助するの
が望ましく,気道狭窄や呼吸運動が不十分な場合には経口挿管を考慮する.

 動脈血酸素分圧が65mmHg以上を維持するまで100%酸素投与を続けるべきで,末梢血Hgb ≧ 10g/dL,上大静脈酸素飽和度>70%を維持できれば予後の改善が期待できる458).室内気でSpO2 が94%を上回る場合には換気が十分であるが,これ以下の場合には酸素投与を行う.90%以下では100%酸素を投与する
469)

②ドブタミン(クラスⅠ,レベルC)

[適応]
 ドパミンは選択的β 1刺激作用を有するので心原性ショックにおいてまず考慮すべき薬剤である.心原性ショックでは心室充満圧上昇と低心拍出量状態にあるが,ド
パミンにより心拍数を増多させずに心拍出量を改善する.
[容量]
 まず2~ 5μg/Kg/分の速度で持続点滴する.最高20μg/Kg/分まで増量可能だが,十分な効果が得られない場合エピネフリンを投与する.
[禁忌]
 閉塞性肥大型心筋症では左室流出路狭窄を増強させる.
[副作用]
 不整脈,血圧の変動(上昇,低下),血清K値低下,狭心痛などが報告されている.血管外に漏出した場合,硬結・壊死を来たすことがある.
[使用上の注意事項]
 腎血管拡張作用はまったく期待できないので,尿量減少の場合には用量を下げてドパミンもしくはPDE 3阻害剤と併用する.また,β遮断剤との併用は,本剤の
効果を減弱させ,α作用が相対的に増強するため末梢血管抵抗の上昇をもたらす可能性がある.

 多剤との併用により配合変化・沈殿・混濁などを起こす可能性があり,単独ラインからの投与が望ましい.

③ドパミン(クラスⅡ,レベルC)


[適応]
 急速初期輸液により患児の状態が比較的安定はしているものの低血圧から脱していない場合,ドパミンは第一選択薬で,心機能に加え内臓および腎の循環の改善が期待できる.仮に循環血液量低下が改善されていなくても有効性が期待される468)
[容量]
 1~ 5μg/kg/分で点滴静注を開始し,病態に応じて20μg/kg/分まで増量可.

 低用量(2μg/kg/分)では腎血流量を最大50%,Na排泄を最大100%増多させ得る.中等量(5~10μg/kg/分)では心拍出量が増大し,高用量(> 10μg/kg/分)
では動脈収縮と血圧上昇作用が顕著になる.

 投与開始直後から末梢循環が改善し,尿量の増加,血圧の上昇,四肢冷感の消失などが認められる.
[禁忌]
 褐色細胞腫ではカテコラミンを過剰に産生する危険性あり.
[副作用]
 不整脈,麻痺性イレウス,四肢末梢虚血,嘔吐などがある.血管外に漏出した場合,硬結・壊死を来たすことがある.
[使用上の注意事項]
 多剤との併用により配合変化・沈殿・混濁などをおこす可能性があり,単独ラインからの投与が望ましい.

④エピネフリン(クラスⅡ,レベルC)

[適応]
 著しい低血圧や敗血症性ショックを合併する場合に第一選択である.もし急速初期輸液とドパミン投与で効果が不十分な場合,エピネフリンにより血圧を維持し心拍
出量を増加させる効果が期待できる.ただし敗血症性ショックいわゆるwarm shockの場合にはノルエピネフリンが推奨される.
[容量]
 蘇生目的でボーラス投与する場合は生理的食塩水で10倍希釈して1回0.1~0.2mL/kg( 0.01~0.02mg/kg)を静注する.気管内散布する場合は静注量と同等~倍量投与する.

 持続静注する場合は,0.1~ 1.0μg/kg/分の速度でシリンジポンプを用いて投与する.低用量(0.2μg/kg/分以下)では,エピネフリンは心臓に対しβ1作用,末梢
血管に対しβ2作用を示し,その結果骨格筋の血流増多と拡張期血圧の低下をもたらす.中等量(0.3μg/kg/分以上)ではα作用が顕著となった血圧上昇を来たす.
[禁忌]
 心室頻拍など致死的不整脈,甲状腺機能亢進症,糖尿病など.
[副作用]
 肺水腫,不整脈・頻脈・心停止,血圧異常上昇など.
[使用上の注意事項]
 心筋酸素需要を増加させるので,心原性ショックや出血性ショックでは使用を原則として避ける.

⑤ PDE 3阻害薬(クラスⅡ,レベルC)

[適応]
 ミルリノン,アムリノンなどのPDE3 阻害薬は,心筋のcAMPase を抑制作用して陽性変力作用を示すとともに,血管壁にも直接作用して血管平滑筋を弛緩させ後負
荷を減弱させる473),474).さらに房室伝導を促進し,冠動脈拡張作用効果も有する.エピネフリンと血管拡張剤が投与されており,かつ循環血液量と血圧に問題がないのに低心拍出量と末梢血管抵抗の上昇が改善せず,ショック状態から離脱できない場合には有効とされる468)

 血圧を低下させることがありドブタミンなどとの併用されることが多い.特に循環血液量が少ない患者では注意する.
[容量]
 アムリノン:5~ 10μg/kg/分で点滴静注.
 ミルリノン:0.25~ 0.75μg/kg/分で点滴静注.
[禁忌]
 閉塞性肥大型心筋症.
[副作用]
 アムリノン:心室頻拍,頻脈,完全右脚ブロック,低血圧,血小板減少など.
 ミルリノン:心室頻拍・心室細動など致死的不整脈,血圧低下,腎機能低下,血小板減少など.
[使用上の注意事項]
 両薬剤とも開始時にまずボーラス投与が行われていたが,急速静注では血圧低下作用が強いため上記のごとく少量で点滴静注を開始することが推奨される.

 ともに他剤と配合変化を来たすことがあり,単独ラインからの投与が望ましい.

 アムリノン:ジアゼパム,フロセミドなどと配合変化が報告され,またブドウ糖・マルトース含有液と同時投与すると24時間以内に配合変化を認める.

 ミルリノン:排泄は殆ど腎からなので,腎機能低下の患者では過量になりやすく注意する.またジギタリスを併用している場合,ジギタリスの催不整脈性を増強する.

⑥ニトロプルシド(クラスⅡ,レベルC)

[適応]
 循環血液量が十分でエピネフリンなどの薬剤により血圧が維持されているのに低心拍出量が改善せず,ショック状態から離脱できない場合には血管拡張剤の併用を考慮する.心筋潅流の改善,左室一回拍出量の増多,心筋酸素消費量の減少などが期待できる.短時間作用型のニトロプルシドなどを少量から開始する.
[用量]
 0.1μg/kg/分持続点滴静注で開始する.臨床的に末梢血管抵抗の低下が示唆されるまで漸増する.最大8~10μg/kg/分まで増量可であるが,日本では一般的に3
μg/kg/分程度までとされる.
[禁忌]
 高度な脳循環障害,甲状腺機能不全,重篤な肝・腎障害,高度の貧血,PDE5 阻害薬投与中.
[副作用]
 本剤の投与により過度の低血圧が急激に現れることがある.逆に中止後,リバウンド現象が生じ急激な血圧上昇を来たすことがある.また代謝産物としてthiocyanate(cyanide)が蓄積し,シアン中毒を生じることがある.
[使用上の注意事項]
 観血的動脈圧の連続モニタリング,心電図に加え血液ガスと酸塩基平衡が常時測定できる環境下で投与する.

⑦急速輸液fluid resuscitation(クラスⅡ,レベルC)

[適応]
 典型的な心原性ショックには適応がないが,敗血症性ショックや低循環血液量性ショックの初期治療として急速に大量の輸液を投与するfluid resuscitationは近年の多くの研究で有効性が確立している.しかし心機能の低下した状態で過剰な輸液を行えば,急性肺水腫などを惹起しさらに病状を悪化させる懸念がある.

 低循環血液量性ショックや敗血症性ショックにおいて投与すべき液体としてアルブミンなどの膠質液と生理的食塩水やリンゲル液などの輸液製剤いずれが優れているかについては,メタ解析や大規模研究でも一致した見解が得られていない468),475)-479).外傷,低アルブミン血症,敗血症などショックの原因によっても至適輸液製剤が異なる可能性はあるが,現時点ではショックにおける急速初期輸液には生理食塩水が推奨される462),480),481)
[容量]
 急速初期輸液を行う場合には,まず生理食塩水もしくはリンゲル液を20mL/kgを5~10分かけてボーラスで投与する.その後も状態により20mL/kg/時の輸液を追
加し,最終的には計40~ 60mL/kg,時にはそれ以上の急速輸液が循環動態の回復に有用な場合がある480),482).小児では,輸液量が過剰になれば肝腫大が認められ臨床的指標になる468)
[禁忌]
 肺水腫など急性左心不全が明らかな場合.
[副作用]
 膠質液でも生理食塩水でも高Na 血症や末梢浮腫など副作用の点でも明らかな差がないとされる462)
[使用上の注意事項]

⑧ Glucose(クラスⅠ,レベルC)

[適応]
 乳幼児は成人に比しブドウ糖の必要度が高く,グリコーゲン貯蔵量も少ないためエネルギー需要が亢進している.特に小児では経口摂取できずカロリー補給を輸液に依存する場合,低血糖に陥りやすい459),483).低血糖でも高血糖でも生命予後不良と相関があることが報告されているが,至適血糖値は明らかではない484),485).成人では150mg/dL以下が推奨されている.
[容量]
 経口禁の場合,維持輸液にブドウ糖を混注し4 ~ 6mg/kg/分が必要との意見もあるが明確なエビデンスはない468)
図25 ショック療法のアルゴリズム
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)