心筋炎症状(-)不整脈(-)
心機能正常感染徴候(+)
軽微な心血管症状
軽度の検査の異常
軽症~中等症の心不全
強烈な心不全
不整脈運動制限無投薬
安静酸素投与無投薬
安静酸素投与
心不全治療不整脈治療
免疫グロブリン療法(?)
免疫抑制療法(?)
安静酸素投与
心不全治療
不整脈治療
抗血栓療法
免疫グロブリン療法(?)
免疫抑制療法(?)
一次ペーシング心肺補助循環慢性心不全
不整脈・伝導障害
心移植
心不全治療
不整脈治療
抗血栓療法
4 薬物療法の実際
治療の基本は安静と心臓の負荷の軽減である.心電図変化のみの症例や軽症例に対しては酸素投与と安静で十分であるが,急激な病状の変化に対応できる体制を整えておく.重症例や劇症型に対しては心不全や不整脈に対する治療と循環動態の管理を行う.治療のフローチャートを図24に示す.
①心不全
後負荷の軽減,循環容量の減少と低心拍出状態の改善を図る目的で以下の薬物が選択されるが,有効性に関するエビデンスは明らかでない.ジギタリス製剤は頻脈があるときのみ使用を考慮する.
1)血管拡張薬
心筋炎で入院した216名の小児患者を対象としたKlugmanらの調査で,PDE3 阻害薬(ミルリノン)が投与された97名(44.9%)のうち85名が生存し,12名が
死亡した452)が,その有効性については明確になっていない( クラスⅡa, レベルC). 硝酸イソソルビド,ACE-I の有効性を示すエビデンスはない.
2)利尿薬
急性期心筋炎に対する利尿薬の有効性を示すエビデンスはない.(クラスⅠ,レベルC)
3)強心薬
Klugmanらの報告452)では,216名の小児心筋炎患者に対しエピネフリンが76名に,ドパミンが73名に投与されているが,臨床試験に基づいたエビデンスはなく,
有効性については明らかでない(クラスⅡa,レベルC).ドパミンは急性循環不全に対し小児適応があるが,その用法・用量は,1~ 5μg/kg/分(最大20μg/kg/分)で持
続静注である.
②不整脈
心筋炎に伴う不整脈は致死的となることがあるので以下の治療が行われる.(個々の不整脈に対する治療の詳細は不整脈の項を参照)
1)心室期外収縮・心室頻拍
Klugmanらの調査452)では,216名の小児心筋炎患者に対しリドカインは93名に投与され,81名が生存,12名が死亡と報告されている.メキシレチンやアミオダロ
ンについて,我が国では小児に対する適応はなく,有効性に関するエビデンスは明らかでない(クラスⅡ a,レベルC).リドカインの成人における用法・用量は1回
50~ 100mg(1 ~ 2mg/kg)を1 ~ 2分かけて5~ 10分おきに静注.
2)完全房室ブロック
イソプロテレノールの静注や一時的心室ペーシングが行われる449)が,有効性に関するエビデンスは乏しい(クラスⅡb,レベルC).血圧の低下があれば一時的心室ペーシングを開始する(クラスⅡ a,レベルC).イソプロテレノールは0.2~ 1.0mgを等張溶液200~ 500mLに溶解し,心拍数又は心電図をモニターしながら注入する.
③抗凝固薬・抗血小板薬
低心拍出や不整脈による血栓形成の予防目的で行う.アスピリンとワルファリンを用いる.アスピリンは小児の心筋炎には適応がない.川崎病の解熱後の回復期から慢性期の投与量は,1日1 回3~ 5mg/kgである.ワルファリンの小児の用法・用量は12か月未満0.16mg/kg/日,1 歳以上15歳未満0.04~ 0.10mg/kg/日である.
④その他
抗ウイルス薬,ステロイド等の免疫抑制薬,免疫グロブリン,抗サイトカイン薬等が使用されることがあるが,いずれも有効性や安全性に関するエビデンスに乏し
い453).劇症型心筋炎の治療としては,早期の心肺補助循環を開始する454).乳幼児では体外膜型人工肺(ECMO)と持続血液浄化装置,学童では経皮的心肺補助装置(PCPS)が使用できる.(クラスⅠ)
図24 小児の心筋炎治療のフローチャート
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)