2 小児の病態
 小児においても,左房圧上昇や低心拍出量による左心不全と,右房圧上昇による右心不全に大別される.小児心不全の原因は,成人と異なり多くを先天性心疾患の術前,術後が占める186)

 左室流出路の狭窄が高度だと,後負荷ミスマッチをおこし,収縮障害をきたす.この際の治療は,緊急手術ないしカテーテル治療で,その後の補助手段として利尿剤
を含めた薬剤投与が適応となる.慢性の左室収縮および拡張性障害に対しては,利尿剤を含めた薬剤投与が適応となる.

 ファロー四徴症の術後など,小児では右心不全の病態が多い.ファロー四徴症の術後,肺動脈閉鎖不全をきたし,右室の容量負荷に起因する右心不全と左心不全を認めることがある.この場合の左心不全の原因はよくわかっていない.

 肺動脈閉鎖で,人工血管等の心外導管によって肺動脈と静脈側心室(通常右室)をつなぐRastelli手術後に,導管逆流と導管狭窄をきたすことがある.この場合も右
室の容量負荷に起因する右心不全と左心不全を認めることがある.

 先天性心疾患では,時に解剖学的右房
-解剖学的右室-肺動脈,解剖学的左房-解剖学的左室-大動脈と正常の結合がない場合がある.解剖学的右室が体心室のことがあり,そのことに起因する心不全がありうる187)

 完全大血管転換症では右室から大動脈が起始する.本症に対する心房内血流転換術(Mustard手術,Senning手術)後には,右室が体心室として働く状態が持続する.右室は経年的に機能が低下し心不全となる傾向を有する.体心室側房室弁(三尖弁)閉鎖不全が進行することがあり,心不全の増悪因子となる187)

 体静脈ないし右房を直接肺動脈に吻合するFontan手術では,宿命的に肺動脈へ駆出する心室がない.Fontan手術は三尖弁閉鎖など単心室血行動態疾患に対して施行される.右心室を通過しないため,中心静脈圧は正常より高く,心拍出量は少なめである.体心室は,収縮障害,拡張障害,あるいはその両者ともに認められることがある.また高い中心静脈圧のために浮腫や腹水など右心不全症状を認めることもある.

 心内膜床欠損(房室中隔欠損)や単心室で,房室弁の逆流が強い例では,成人の僧帽弁閉鎖不全の病態をとることがある.

 心室中隔欠損等の左右短絡性疾患では,出生後肺血管抵抗の低下とともに肺血流量が増加し,呼吸障害や哺乳障害,体重増加不良などの症状が出現する.
心室中隔欠損に動脈管開存,大動脈縮窄・離断合併では心不全症状がより早期に出現する.
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小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)