Stage 症状 A 心不全に進展するリスクが増大しているが,正常 な心機能を有し容量負荷を認めない患者 例:心毒性を有する薬剤の使用歴,遺伝性心筋症 の家族歴,単心室,修正大血管転位 B 心奇形あるいは低心機能であるが,心不全症状も 心不全の既往もない患者 例:左室拡大に伴う大動脈弁閉鎖不全,アントラ サイクリンの使用歴があり左室収縮能が低下し ている C 心不全の既往または症状を有する,構造的ないし 機能的心臓病患者 D 強心剤の持続投与,機械的循環補助,心臓移植, あるいはホスピスケアを要する終末期心不全の 患者
■ NYHA 分類 New York Heart Association(NYHA) 分類は, 現実的な身体活動制限によって評価するという簡便さから成人の心不全重症度分類に広く用いられている指標で ある.身体活動の制限される度合いから求めた指標であるため幼小児への適用は限定される.
■ Ross 分類 Ross 分類は幼小児における心不全重症度評価のために考案された指標である(表3)98).1994年にカナダ心臓血管協会により公的システムとして提唱され99), National Cardiomyopathy RegistryやCarvedilolの多施設共同研究にも用いられている.このRoss 分類は血漿ノルアドレナリン濃度と正相関し98),β受容体の密度とは逆相関することが示されており100),このシステムの妥当性の根拠の一つとされる.
■その他のScoring システム 小児心不全の重症度決定のためのスコアリングシステムはこれら以外にもいくつか提唱されている.たとえば乳児に対する12ポイントスケール101)などがそうで,栄 養の質と期間,呼吸数と様式,心拍数,末梢循環,拡張期充満音の有無,肝腫大の程度などをその変数としている.Ross scoreをより詳細に分類したModified Ross score102),103)などもある.しかしこれらのシステムも多数の対象に使用したものではなく,また生物学的指標や運動耐容能と比較も十分にはなされていない.ただしOhuchiらは先天性心疾患の小児や若年成人の臨床症状と神経体液性因子の変化に相関があると詳細に報告している104).
■ Staging system NYHA分類もRoss スコアも現時点という時間的には一点の症候に焦点をあてたものであり,病初期の患者を選別したり,病気が安定した状態にあるのか代償され ているのかを見分けるシステムではない.2002年以降のACC/AHA心不全ガイドラインではこれらの不足を説明する心不全の分類シェーマを用いてNYHA分類を補っ ている(図8)101).ACC/AHA ステージングは,心不全リスクで患者を選別し,そのリスクに対して早期に介入し症状発現を遅らせるように設計されており,また症状 が発現した患者に対してより強力な管理が必要であることも記されている.このACC/AHAにより提唱されている成人用心不全分類システムは多少の変更を加えるだけでほぼそのまま幼小児にも適用できる(表4)105).