3 小児薬用量設定へのPK-PD情報の利用状況
新生児から成人までの発達過程で体重は約20倍,臓器重量では体表面積から推測して約8倍の発達変化を生じる.また,新生児では薬物動態に関係する肝薬物代謝酵素活性や腎糸球体濾過機能などが未熟で乳児期にかけて急速な発達を遂げることも知られている.このような発達変化(ontogeny)を生じる小児の薬物療法は,本来小児で観察されるPK/PD情報に基づいて行われるべきであるが,倫理的配慮や種々の技術的な困難さにより臨床薬理学的な臨床試験は少なく,小児の薬物療法ガイドラインの基礎となるべきPK/PDデータは不備である.
従来,小児薬用量は成人薬用量を該当患児の年齢や体重などの生物的な発達パラメーターを尺度として換算する経験式(Augsberger式など)が使用されたが,現在では科学的な根拠の不十分さから欧米の代表的な教科書では言及されていない.最近では,おおよそ5~ 6歳以後の小児薬用量は抗がん剤などの治療濃度域が狭い薬物をはじめとして,徐々に薬物代謝や排泄に関わる肝臓や腎臓の重量発達を近似する体表面積を基準として体表面積あたりの成人量を用いて小児用量を換算する事例が増加している.また,新生児期から乳児期におけるPKの変化を考慮していくつかの薬物が年齢に応じた推奨投与量が,ゲンタマイシン,セフタジジム,クリンダマイシン,カルバマゼピン,フェニトイン,フェノバルビタール,テオフィリン,ジゴキシン,カプトプリル,ラニチジンなどで確立している1).以下に,小児のPKとPDに関する知見を簡略にまとめる.
小児期心疾患における薬物療法ガイドライン
Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases ( JCS2012)